大学にはいま「サンポリ」という業界用語がある。これは「3ポリ」のことで、「3つのポリシー」の略なのだ。すなわち、Admission Policy (AP)、Curriculum Policy(CP)、Diploma Policy (DP)だ。
この3ポリは学部学科だけでなく、◯◯センター(キャリアセンター、教職課程センター、国際交流センターなどなど)のような「所属学生」を持たない組織にもあるのだが、厳密に言うと diploma (修了証書)を出す組織ではないので、Diploma Policy はおかしいでしょう、ということになった。
そこで diploma policy に変わる用語はありませんかねぇ、という相談を受けたので、英語教員としては、Achievement Goals でどうでしょうか、と提案したところ、それが採用になった。
カタカナ表記として一度「アチーブメントゴール」と言われたので、「いや、ゴールじゃなくてゴールズでお願いします。複数形で。」と言ったところ、その後、会議などでは「アチーブメント・ゴールズ」という言い方が用いられるようになった。
いったん、ほかが Policy と単数なのに、なぜ Goalsだけが複数なのか、という質問がでたが、policyは全体でpolicy ですが、 goalは個々の到達目標がたくさんあるので、という説明をしていちおうは納得してもらった。
問題はここからである。Diploma Policy を DPと略したように、Achievement Goalsも略記しなければならない。最近、猫も杓子も口にしているSDGsの例を見るまでもなく、Achievement Goalsは AGs になるのが正しい(は言い過ぎかもしれないが、少なくとも慣行であると思う)。しかし、アチーブメントゴールズのアクロニムとして、AGsを提案することは、私はできなかった。提案して採用されなかったわけではなく、自分の気持としてできなかったのである。
なぜか。
それはあくまでこれは、日本という国の中で日本語を物事を進めている中での、ファッションとしての?英語アクロニム使用の文脈だと考えたからだ。つまり、そのなかで「アチーブメント・ゴールズ(AGs)」とやってしまうと、AGsの「正しい英語らしさ」が目立ちすぎてしまって違和感があるのではないか、と思ってしまったのである。
会議のなかでも "DP"と書いてあるところは、みんな「ディーピー」と読んでいる。APは「エーピー」と読んでいる。でもAGを「エージー」と読んではくれるだろうが、AGsと書いてるのを、「エージーズ」と読んでくれるだろうか?
30 pointsでなく、30 ポイント というのがノームであるお国柄である。「ポイント」というカタカナ語は完全に定着していると思う。また発音的にもポイントとポインツの使い分けくらい、かなりハードルが低いと思うのだが、それでも、メディア等で、カタカナ語として、10点を、「テンポインツ」と言った例を私は聞いたことがない。ポイントでなくポインツというのさえ違和感がある国で、ゴールでなくゴールズというのを受け入れるだろうか?答えはノーではないか、と私は思ってしまった。
そもそも Go To Travel とやって、「わかるんだから、英語として正確かどうかなんて二の次だよね」という状況である。AG か AGs か、なんて二の次どころか三の次ではないだろうか。
だが、今後いろいろな会議で目にする書類で、AGと書いてあって、それを「エージー」「アチーブメントゴールズ」と発音されるたびに、AGs を提案しなかった己の意気地なさに思いをはせることになりそうだ。