Total Pageviews

8/12/2021

発音記号を教えるのは必須か?

 先日、全国英語教育学会において、「英語授業での発音カタカナ表記に関する考察:カナ/英文字混合表記システムの提案」というタイトルで発表を行った。内容はこちらにアップしてある

発表したカナ/エイ文字混合表記システムについて、本日、メールで質問(コメント)をいただき、私の考えを問われたので回答したのだが、その内容をこちらにも書かせていただく:

質問者は音声学を専門とする大学教員の方である。

ご回答:

先生のお考えは:

(1)カタカナ/英文字混合表記は、学習者自身が書き記すには無理があるだろう。
(2)教員に教えてもらわずに、自分で辞書にあたって新たな語の発音を知るには、発音記号が読めるようになっている必要がある。

ということであると理解しました。

(1)のご指摘については、正直、意表をつかれまました。というのは、私自身は生徒が自分でこの表記をする、という想定はしていなかったからです。発音がわかった人間でないと、この表記はできないだろう、というのはご指摘の通りかとおもます。ですから、基本的には教員が書く、という前提です。もちろん教員が提示した表記を備忘的に生徒がコピーすることはあるでしょうが、新たな単語について、生徒がこの表記をするという想定はしておりません。

なぜならば、実際の音声と、この表記を通じて英語のフォニックスに慣れた生徒たちは、徐々に、自分で英語のスペリングから音声を導き出せるよになると期待されるからです。音声が導き出せるようになった生徒が、あえてこの表記をする必要はないでしょうから、表記することもないでしょう。

(2)についてですが、ご存知のように英語のスペリングはかなりの程度の透明性もあるため、新たな語の発音を知るためには、発音記号が読めるようになっている必要がある、とまでは言い切れないように思います。私が育てたい学習者は、英語のスペリングを見て、かなりの確率で発音の予測が正しくできる学習者です。もちろん発音記号が読めるに越したことはありませんが、必須ではないように思います。そして何よりも今ではその気になればほとんどあらゆる単語の発音の実際の音声が辞書アプリやネットで聞ける、という環境にあることも重要です。

改めて発音記号を指導することについてですが、子音に関しては事実上ほぼまったく不要ではないでしょうか。発音記号というあらたな記号を覚えることよりも、thを見たらth、fを見たらf,vを見たらv、rをみたらr、lを見たらl の「音」が出せるようになる、出すようになる、というスキルを養うことが重要かと思われます。(有声無声の区別は重要度は大きくないと思います)。その意味で、発音記号の指導ではなく、発音の指導をすべきだ、というのが私の基本的なスタンスとなります。

子音に比べると母音のスペリングはかなり不透明性、不規則性もあるので、できるならば発音記号を読めるようにしておいたほうが便利かとは思います。ただこれも前述したように、辞書やネットには実際の音声がありますので、必須とまでは言えないと考えています。

整理しますと、

(1)教員志望者はもちろん音声学とIPAを理解し、その上で、IPAを使わずに発音自体を教えるスキルを養う必要があり、そのスキルの引き出しに、カタカナをうまく併用した表記も利用できるようになってほしい。(2)一般の英語学習者には、発音記号を指導する必要性は低い、あるいは優先順位は非常に低い。記号ではなく、英文字のスペリングをよく見て、それに対応する「音」自体をスキルとして習得させることに注力すべきである。

というのが私の現在の考え方になります。