Total Pageviews

5/17/2020

外来語における「テイ」であるべき表記が「ティ」になる過程についての推測的考察

靜 哲人

背景

sustainableは、/ səstéinəbl / と発音されるので、普通にカタカナ表記すれば 「サステイナブル」である。また entertainer は / entɚtéinɚ / なので、「エンターテイナー」と表記するのが普通であろう。ところが、それぞれ「サスティナブル」「エンターティナー」と表記されることがかなりの頻度である。

実際にGoogleで検索してみると、「サステイナブル」「サスティナブル」「エンターテイナー」「エンターティナー」のヒット数は以下のようである。

サステイナブル: 4020000 ヒット
サスティナブル: 3040000 ヒット

エンターテイナー:572 ヒット
エンターティナー:353 ヒット

いずれも「テイ」のほうが多いが、「ティ」も4割ほどはあり、かなり流布しているといってよいだろう。

原因に関する考察

では、なぜ sustainableの表記として「サスティナブル」が、entertainerの表記として「エンターティナー」が生まれるのであろうか。

可能性1:音声からの誤解

ひとつの可能性は、英語音声を日本語ネイティブが聞いた時に、そのイメージが「ティ」だったから、というものである。しかし、この可能性は低いであろう。/ səstéinəbl /も/ entɚtéinɚ /も、「テイ」の部分に強勢があり、これを / tɪ́ /のように聞く可能性は低いはずだ。

可能性2:スペリングからの誤解

もうひとつの可能性は、英語のスペリングを英語をよく知らない日本語ネイティブが見て、当該部分を「ティ」だと誤解した、というものである。しかしこの可能性もまた低いであろう。sustainableも、entertainerもいずれも当該部分のスペリングは tai であり、これを見て/ tái / だと思う可能性はあるが、/ tɪ́ /だと思う可能性は限りなく低い。

第3の可能性:カタカナの誤記

当該英単語の音声からもスペリングからも、日本語ネイティブが「ティ」を導き出す可能性は限りなく低いことが思料されるため、「ティ」表記は当該英単語から直接派生した以外のルートで出現したと考えざるを得ない。そこで我々は以下の仮説を提案する。

<仮説>tai部分を「ティ」と表記する現象は、カタカナ表記の「テイ」が「ティ」に誤記されたことにより発生した。

sustainable も entertainment も、音声にしろスペリングにしろ、最初に英語に接した日本語ネイティブは、当該部分を必ず「テイ」と表記したはずである。「ティ」という表記をする可能性は上述したように音声面からもスペリング面からも少ない。そしてその「サステイナブル」「エンターテイナー」という表記が、いつしか一定の割合で「サスティナブル」「エンターティナー」と誤記されたことで、「ティ」表記がここまで世間に広がったのではないだろうか。

カタカナ表記の「ティ」は、その読み方が一意に決まらない、とも考えられる。すなわち「ティ」によって / tɪ́ / を表すこともあるが、「テ」を強く発音した後にやや弱めに「イ」を発音する、すなわち /téɪ /のような発音を表すこともないとは言い切れないのではないか。このような「ティ」という表記の曖昧性が、この「テイ」が「ティ」と誤記されたことに一定程度貢献したのではないか、とも考えられる。

結論

本論文は「サスティナブル」「エンターティナー」表記が生まれたのは、本来の「テイ」表記が「ティ」に誤記されたことによる、という仮説を提出した。今後は、年代別の「テイ」と「ティ」の出現率の変遷を調査することにより、本仮説の真偽をテストすることが求められよう。

謝辞

本研究の着想はICUの小林洋子氏からの貴重なコメントから得られたものである。この場を借りて厚く御礼申し上げます。