Total Pageviews

8/16/2020

オンデマンドビデオ+ファイル提出による擬似「グルグル」におけるフィードバックに関する考察

 前期のオンライン授業が終わりました。私の場合はゼミを除いてほぼすべてオンデマンドビデオによる授業だったので、先週まではほぼ毎日ビデオ撮影のことを考えていたような気がします。学生にはもちろん私にも新しい経験だったので、終了時にアンケートをとってみたところ、いずれの科目もまずまずの満足度であったようで安心しました。


<英語教育学入門>


<教科教育法(英語)基礎>


しかしその一方で、個々の自由記述コメントからは反省させられることがありました。もっとも大きなものは「フィードバックのしかた」です。

どの授業も基本サイクルとして、

動画で解説し録音課題を指示 → 学生は録音ファイルを提出 → フィードバックを動画にして次週の解説とともにアップ

という形をとりました。フィードバック時は画面の左側にファインダー内にファイルを並べておき、右側には発音ポイントをハイライトした目標文を表示してワードファイルを開き、左のファイルをひとつひとつ再生してコメントしてゆく、という形です。その様子をそのままCamtasiaで録画しておいて動画にするわけです。



課題として出す音読や歌唱は10数秒〜30秒程度の長さのものです。そしてここで問題になるのはフィードバックにかかる時間です。フィードバックは録音を再生しながら問題を感じたら止めて何がどう問題でどう発音すべきかを言うというものなので、15秒の音読であれば不フィードバックを入れると少なくとも1.5倍ほどの時間がかかります。

20数名のクラスであれば、全員に対してフルにフィードバックしてもたかが知れているのですが、60名を超えるようなクラスだと30分とか40分とかかかります。その動画は次回の授業の冒頭で見てもらう動画になるわけなので、そこまで長くするのは得策ではないと考えました。自分で作るのも正直シンドイですし、見る側もすこし辛いであろうと。

そこで60名を超える上の2つのクラス(英語教育学入門と教科教育法)では、おおくの場合、対面のグルグルでやっているのに準じた方法をとりました。すなわち、「決定的な発音ミスがあった瞬間に、それを指摘して、その録音ファイルの再生はその場でやめ、次の学生に移る」というものです。

こうするとほぼほぼ発音ができている学生だけ、ファイルを最後まで再生して「合格!」と言われ、そうでない学生は途中で「〜がダメだね」というコメントで切られて終わる、ということになるわけです。

一番極端な例を出すと、Ed Sheeranの、Shape of Youの冒頭、

"The club isn't the best place to find a lover, so the bar is where I go. Me and my friends at the table doing shots drinking fast and then we go slow” 

であれば、冒頭、"ザ club..." と始まったらその瞬間にブチッと切られ、「ザじゃない! 英語にはザなんて単語はないから!」というコメントとともに終わってしまうわけです。私はとくに「ザ」に対する姿勢は厳しいので。

これは対面のグルグルと同じやり方です。

このサドンデス方式によって、60名を超えるクラスでも、リーズナブルな長さ(20分程度)のフィードバック動画とすることができていたわけです。(ちなみに、非常勤先のクラスは10数名と20数名だったので、どちらもいつも全員の全ファイルを聞いてフィードバックをしていました。)

単にフィードバックの全体時間をある程度抑えたい、というだけではなく、この方式には自分なりの理由もありました。それはこのフィードバックは個々の学生に対してその当人の発音の評価を伝えたいというよりも。全員に対して「このような発音に対してはこのような評価をするのだよ」という全体としてのフィードバックである、という意識があったからです。特に教科教育法は将来の教員になるための授業ですから、学習者が生成する音声の質に対してどのような判断をしてどのようなフィードバックをするか、ということを学んでもらいたいというのがあるわけです。だから「フィードバックは自分の音声に対してのものだけでなく、全員に対するものをよく聞いて、どういう音声にどういうフィードバックがあるかをよく聞きなさい」というメッセージを度々出していました。

しかし、今回のアンケートを読んで、このサドンデス方式はやはり後期は改めようと考えています。対面のグルグルでは 「theじゃない!」と一瞬で斬られてしまった学生も、2〜3分後くらいにはまた次のラウンドがあるので雪辱の機会があり、またダメでもさらに2〜3分後には機会があり、その日のグルグル中に少なくても5〜6回はやり直して修正するチャンスがあるわけです。この「ダメであっても何度でもやりなおせる」のがグルグルの良さのひとつでもあります。これに対して録音提出によるグルグルでは、同じ題材による再チャレンジの機会はなく、別の題材で雪辱するチャンスが1週間後、です。

ほとんどの学生が、自分の録音はかなり練習し、チェックしてから出してきていたようです。英語教育学入門は98.2%、教科教育法は実に100%の学生が、「一度録音したら聞き直して、満足できなければ修正して録音しなおした」と回答しています。

<英語教育学入門>

<教科教育法(英語)基礎>


何度も練習したつもりの30秒の録音が、出だしの1秒で切られ、あとの29秒は聞かれない、というのでは、やはりモラールに対してよろしくないでしょう。もちろん、そのように学期の途中で思わなかったわけではないのですが、しかし最後まで再生される学生もいるわけで、そういう「よい例」から学んでもらいたい、途中で切られる自分と、最後まで聞かれる録音の差をよく噛み締めてもらいたい、という justficationで、基本的にはこの方式でやってきたのでした。

ただやはり、時間をかけて録音して提出した身からすれば、自分の録音のどこがよくてどこがダメかを指摘して欲しい、というのは無理からぬ気持ちであると言えるでしょう。ということで、後期からは全員の録音を最後まで再生したうえでフィードバックをすることといたします。

そのためにはクラスの人数によって指定する録音の長さをある程度短くするのもやむを得ないことなのかな、と思っています。

オンデマンドのグルグルには対面のグルグルとは違う配慮が必要だった、ということにいまさらの気づきがありました。