なぜそんなに多い人数かというと、学科の2年生全員に対して、26名ほどいる学科教員がひとり1回ずつ自分の専門領域に絡めて講義する「知の森を覗く:英語学とその関連領域」というオムニバス講義で、今日1回分の担当が私だったのです。
じつは今日の講義に関しては、日程が決まってからずっと思い悩んでいました。260名のうち今まで一度でも授業で顔を合わせたことがあるのは三分の1より多い程度。残りは初対面で、この後もこれっきり顔を合わせない学生のほうが多いはずです。もちろんほとんど名前を顔もわかりません。そういうラポールもなく、コンロールのききにくい状況のなかで話をきちんと90分間聞かせるには、どういう内容と、どういう方法がよいのか、と。
英語(スキル)の授業をするなら200名でも300名でも30名と本質的には変わらず、いつも通りのイメージでできるはずです。しかし今回は授業の縛りとして「自分の研究領域の講義をする」ということがあり、英語のスキル授業をするオプションはありません。私のことを知っている学生には教室で「先生、きょうはグルグルやりますか?」などと聞かれましたが、そうはいきません。
英語の授業でなく、いわゆる講義をするわけです。そして聞いているのが大教室の260名であっても、たったひとりでも寝られたり、突っ伏されたり、スマホでもいじられたりするのが、私は話し手として我慢できません。ましてやひとりでもふたりでも私語などされるのはアリエマセン。学生の状態がどうであっても、寝ていようがスマホを見ていようがしゃべっていようがお構いなしに、下を向いて講義をするのに痛痒も感じない大学人は多いように見えますが、とてもそんな「芸当」はできません。なんといっても「靜流英語授業道 家元」の看板がありますし。家元の授業で私語があったり、居眠りがあったのでは、看板を下ろさねばならなくなるでしょう。
つまり今日のミッションは、(1)自分の専門領域(今回は、英語授業学ではなく、言語テスト論の話を選択しました)の講義をしつつ、(2)その領域に全員が興味を持っているはずがない260名の大学2年生を90分間、ひとりのこらずとりあえず集中させる、ことにありました。
他の先生がたは、90分のうちおおよそ70分程度講義をし、残りの20分程度でリアククションペーパーを書かせる、などをされているようでしたが、私はそれでは70分の間の学生の集中度合が心配でした。
考えに考えた末、出した結論は、むかしの著書『英語授業の大技小技』に書いた「発問即テスト法」の応用です。
最初にA4の、ほぼ白紙のペーパーを配ります。トップには学籍番号と氏名を書く欄があり、その下は1~14の番号をふった記入スペースがあります。
放っておくとどうしても学生の一部は教室の最も後ろのほうに座りたがりますので、この白紙ペーパーの配布も一工夫。最初の段階で教室の最後列に座っている一団にはこのペーパーを配らず、空いている前列を指して「(このペーパーが欲しければ)あっちに座ってね」と指示し、260名をほとんど空きスペースなく、最前列から座らせました。若干名遅刻してきた学生も、前のほうに誘導しました。
そのうえで、次の説明をパワポで見せました:
<今日のやり方>
配布した紙はテスト用紙です
指定されたことがら以外は書かないこと
→ メモは自分のノートなどにする。
講義をしながら、適宜解答を指示するので、その内容について解答してください。
解答の際、自分のメモを参照してよい。ただし他人と一切コミュニケーションしてはいけない。
最後に提出してもらい、引き換えに「正解例」を記したプリントを渡します。
<あらかじめの注意>
許可なく隣同士で口をきいたら
スマホ等をいじっているのを見かけたら
机に突っ伏している等、を見かけたら
関係ないことをしているのを見かけたら
頬杖をついている等を見かけたら
→その時点で、不正行為 or バーチャル欠席とみなし、テスト用紙を回収した上で、退場を命じます。
かなり勢い込んでこの説明を見せたのですが、そこまで勢い込むことは不要だったようです。
本学の学生の名誉のために言っておきますと、90分間で私語はゼロでした。ちょっとうとうとしかけたのがのべ2件ありましたが、すぐ「そこ、起こしてあげて」と声をかけ、隣の学生に起こさせたので問題はありませんでした。
私が説明している間中、学生たちは必死にメモをとりつづけ、おおよそ5分から10分おきに私が繰り出す発問(たった今説明したことをまとめればこたえられるもの)に対する解答を必死に書きつづけました。
解答を書いている間は教室内を巡回し、一周して教壇に戻った時点でその欄の解答時間は終了、といリズムにしました。
最後は英語のテスト形式の紹介として リスニングクローズとディクテーションを扱ったのですが、リスニングクローズのマテリアルは、私がアカペラで歌う Santa Claus is coming to town で、歌詞の途中に「ピー!」と口で言い、その「ピー」にあたる語を書かせるというもの、ディクテーションのマテリアルは Rudolph, the red-nosed reindeer で、結局最後はみんなで合唱して楽しく終わってしまったあたり、テスト理論の正規分布や信頼性の話で始まりながらも、最後はやっぱり歌なのね、というオチでした。
緊張と集中の90分間、お疲れさま。