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6/07/2020

「プラウンマサラ」はなぜ「プラウン」であって「プローン」ではないのか?

「プラウンマサラ」についての問い合わせに対する
(株)良品計画の回答を考察する

〜 日本企業における「みんなで渡れば英語間違いなんてどうでもいいや」メンタリティ〜

靜 哲人


要旨:prawnの誤読である「プラウン」を商品名としたことについて、販売元である(株)良品計画に問い合わせたところ、(1)我が国では「プラウン」が定着しているから採用したのであり、(2)それが誤読であると認識していたか、には回答できない、また(3)誤読に基づく商品名で商品を販売していることについての社会的責任についてどう考えるか、についても回答できない、さらに(4)このような回答をしたこと自体を公表するのは遠慮してもらいたい、旨の回答があった。これらの回答から、自社の商品名や広告の中の表現が英語として正しいか誤っているかなどは重要視していない、という企業姿勢が伺える。この個別ケースにとどまらず、かかるメンタリティは広く我が国の企業に見られるのではないか。


1. きっかけ

5月中旬の土曜日、筆者はバラエティ番組「王様のブランチ」を観ていた。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で視聴者が自宅で過ごす時間が増えていることを背景にして、味の良いレトルト食品を紹介するという企画を放映していた。そのなかでレポーターに紹介されたある商品を聞いた瞬間、違和感を覚えた。それは「プラウンマサラ」である。

(ん?ブラウン?いや「プラウン」で書いてある。プラウンって何だ?聞いたことない単語だけどなんだろう?)

実際の商品が紹介されると、要はエビの入ったカレーである。

(エビ。。まさか prawn のこと?プローンでしょ。なんでプラウンなんてありもしない語を?)

ほんの一瞬、王様のブランチのレポーターの知識不足からくる言い誤りかと思いかけたが、そうではない。レポーターはもともとの商品名を読み上げているだけである。

「素材を生かしたカレー プラウンマサラ(海老のクリーミーカレー)[無印良品]

がその商品であった。


(公共放送で、そんな馬鹿な?!)


2. 同僚との推論

この件をFacebook上で話題にしたところ、英語教員仲間からおおよそ次のような見立てがあった。

「無印良品のような大手の会社が、間違った表記を商品名にするのは考えにくい。」

「きっとインド英語では、prawnは、プローンではなく本当にプラウンと発音するのではないか。」

「インド料理店のメニューなどもプラウンの表記が多い」

「それはインド人が日本人に合わせているのではないか」

「国民性ではないか。日本人は固有名詞にこだわらない」

このような議論を聞いているうち、ひょっとすると本当にインド英語では prawn をプラウンというのかもしれない、と思いかけていた時、ある仲間から以下の動画情報が寄せられた。




インド英語話者がまさに prawn masalaの作り方を紹介しているものだ。早速観てみたところ、果たして、/ r /こそ接近音ではなく叩き音であるが、awの部分は紛れもなく オー である。つまりインド英語でも prawnはやはりプローンなのだ。

こうして「インドではprawnはプラウンなのである」説が否定された。ではなぜ発売元はこのような誤読に基づく商品名をつけているのだろうか。そこで直接、販売元である無印良品のウェブサイトの問い合わせ欄を利用して質問してみることにした。


3. 無印良品への問い合わせ

以下、やりとりを時系列に示す。(担当者の個人名を削除し、レイアウトを整えた以外はすべて原文のママ)

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2020-05-16 靜→無印良品(質問その1)

 私は英語の教員をしております。

 https://www.muji.com/jp/ja/store/cmdty/detail/4549738730101

の商品名についてお尋ねします。

 プラウンマサラは、おそらく prawn masala のことだと思います。

 ご存知のようにprawnとはエビのことですが、「プラウン」ではなく「プローン」と発音される単語です。

 このことが私の英語教員仲間と話題にのぼったとき、「無印良品のような大手メーカーが商品名に誤った発音を使用するはずがない。英米の英語の発音はプローンだが、インド英語での発音はプラウンなのではないか」という説もあったのですが、その後、YouTubeなどの動画をみてみるとインド人も全員あたりまえのように prawnはプローンと発音していることが判明いたしました。

 御社で商品名を「プローンマサラ」ではなく「プラウンマサラ」とされている理由は、以下のどちらでしょうか。

 A)prawn はプローンだということを知らなかった。
 B)  prawnは正しくはプローンだと知っていたが、日本ではプラウンが定着してきているのでそれにならった。

また実際には存在しない発音を商品名にしてしまっていることについての御社のご見解を伺います。

英語教員としては、prawnは「プラウン」と発音する単語なのだ、という誤った認識を、御社のような一流企業が世間に広めてしまうことにもなっており、この国際化の時代に少し残念だと感じています。

 よろしくお願いいたします。

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2020-05-21 無印良品→靜(回答その1)


いつも無印良品をご愛用くださいましてありがとうございます。

お問い合わせの件について、弊社の「素材を生かしたカレー プラウンマサラ(海老のクリーミーカレー)」の名称ですが、日本では「プラウンカレー」や「プラウンマサラ」等が料理名として定着している単語のため、prawnのカタカナ表記として「プラウン」といたしております。

ご参考にしていただけますと幸いでございます。

これからもより良い商品づくりに努力してまいりますので、今後とも無印良品をご愛顧くださいますようお願いいたします。

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2020-05-21 靜→無印良品(質問その2)


問い合わせに対するご回答をありがとうございました。

日本では「プラウンカレー」や「プラウンマサラ」等が料理名として定着している単語のため、prawnのカタカナ表記として「プラウン」といたしております。

とのことで承知いたしました。

先にもお尋ねいたしたつもりですが、以下の2点についても、御社としての公式のご回答をいただけますようお願いいたします:

(1)この商品名を決定するにあたり、本来の英語発音が プローンであることを御社(のご担当者)としては認識されていましたか、または認識されていませんでしたでしょうか?(イエスかノーかでお願いできればと存じます)

(2)実際には存在しない(いわば「誤った」)音に基づく商品名を自社製品につけられているわけですが、このことに関して、御社として(今の時点で)どうお考えですか? 問題だと思う、思わない、そしてその理由は、などのご回答をお願いできればと存じます。


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(9日間、応答なし)




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2020-05-30 靜→無印良品(質問その2に対して回答を催促)



5月21日に下記のメールを差し上げたのですが、ご確認いただいておりますでしょうか。

ご回答をお待ちしておりますので、よろしくお願い申し上げます。


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2020-06-02 無印良品→靜(回答その2)



ご回答が遅れまして申し訳ございません。

ご連絡いただきましたご回答につきましては、5月21日に回答しました内容がすべてでございます。

追加でご質問いただきました内容については、弊社のお客様対応の範囲外となるため回答を差し控えさせていただきます。

お客様にはご納得いただけない回答かとは存じますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

なお、誠に勝手ながら本件に関しましてはこれをもって対応を終了させていただきますことをご了承くださいませ。


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2020-06-02 靜→無印良品(質問その3)


 対応そのものは終了ということで承知いたしました。一点だけご確認ください。

 今回の私の質問とそれに対する御社の回答と対応の経緯を、ご担当者の固有名詞(◯◯様のお名前)を除いた上で、無印良品様の公式のご回答として、私個人のブログとFacebookに掲載したいと考えておりますが、問題ございませんでしょうか?

 ブログの読者はおもに英語教育関係者です。

 よろしくお願いいたします。


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2020-06-02 無印良品→靜(回答その3)



ご返信いただきまして恐れ入ります。

ご連絡の件ですが、弊社WEB上のメールフォームからのお問い合わせへのご回答内容は、お問い合わせいただいたお客様へのご回答でございます。

その他の目的でご利用になること、転載されることはご遠慮いただけますと幸いです。

このようなご返答となり恐縮でございますが、どうかご理解賜りますようお願い申し上げます。


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2020-06-03 靜→無印良品(質問その4)



ご連絡ありがとうございました。

今回の御社のご回答を公開することは「遠慮」してほしい、とのご連絡ですが、それはとうてい納得できるものではありません。これだけインターネットが発達し公人私人を問わず広く利用されている現代社会の状況に照らし、公開することを控えるべき合理的な理由はないものと考えられますので、今回の一連のやりとりはご担当者様の個人名を除いて、公共の利益のために、すべて公開するつもりでおります。

もともと私が質問を差し上げた意図は、無印良品様のような一流企業が商品の名前を決めるに際して、英語的な面からの正確さをないがしろにしているように見える現状に疑問を呈し、それについての、公的な役割と責任をもった一流企業としての社会的責任と企業倫理を問う、ということです。

無印良品様ほどの一流の企業が、実際には 「プローン」であるものを商品名に「プラウン」と表記し、それが一般的に流布し、その結果、多くの小学生、中学生、高校生、大学生、一般の英語学習者が、「エビは『プラウン』と発音するのだ」という誤った記憶と誤解が生み出されてゆく、といった現象は、一英語教員として大変に残念なことと考えており、看過できません。

ひとつひとつは小さな事案ですが、類似の事態は繰り返されており、我が国の企業の一般的な姿勢(「利益追求のためには英語の正確さなどは二の次である」)の反映だと考えられるからです。一例としては、実際には「アウォード」である awardが、近年完全に 「アワード」として我が国に定着し、「◯◯アワード」という名称の賞を多くの一流企業が出している、などがあります。

すこしでもそのような残念な事態を今後減らしてゆけるように、一英語教師として当該企業様に微力ながら働きかけてゆきたい、というのが今回の質問の目的でございます。

以上の意図に照らしますと、今回くださった御社からのご回答(要約です。間違いがあればご指摘ください)であります、

1「国内ではプラウンが一般的なので、当社でもそれを採用した」
2「商品名の決定に際して実際にはプローンであることを知っていたかどうかについては、コメントできない」
3「実際にはプローンであるのにプラウンとしてしまっている事実について、現在、会社としてどう考えるかについては、コメントできない」
4「以上のやりとりは、公表されては困る」

のなかの、1は理解できますが、2、3は残念な回答であり、4に至っては高度に公的な存在であるはずの御社の姿勢を疑わせるものです。

今回の私の質問と、それに対して◯◯さまがくださったご回答は、「無印良品」の公式見解・回答として、最後の「公表はしないで欲しい」という要望があったことも含めて、すべてブログとFacebookに公開し、広く世の、特に英語教員に知らしめてゆきたいと考えております。それがゆくゆくは我が国の、公共の利益にかなうものと思われるからです。

以上の意図をお読みになって、上の2,3,4を修正もしくは加筆することがあれば、ご連絡いただければと存じます。たとえば4を「1,2,3は、当社の公式の見解であるので、公開してもらって構わない」と修正するのであれば、4の「公表されては困る」という回答があったことは公表せず、その「公式見解である」という回答をいただいた、という形で公表させていただきます。また(私の側からは)ベターな選択肢として、2,3について再考され、修正回答をくださるのでも構いません。その場合は、その修正回答のほうのみ、公表させていただきたいと考えています。

改めてのご回答については、一両日中を目途にいただければ幸いです。ご回答がない場合には、上の形のままアップロードさせていただきます。

なお、過去に別の企業様に類似の問い合わせをしたときの経緯は以下でご参照いただけます:

https://cherryshusband.blogspot.com/2015/01/very-berry-soup.html

ご検討のほど、よろしくお願い申し上げます。


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※この質問を送ってからまる3日経過した2020年6月7日現在、返信はないため、先方からこれ以上回答が返ってくる可能性はないであろうと判断し、本稿を公表した。最後の問い合わせは無視されたことになる。


4. 考察

先方の回答の、「日本ではプラウンが定着しているためプラウンを採用した」というのはおそらく事実であろうと思われる。しかしそれが、「本当はプローンなのだと知っていたが、日本ではプラウンが定着していたので、あえてそちらを選んだ」という意識的な採用だったのか、「本当はプローンだとは知らず、なにも考えず、日本ではプラウンが定着していたので自動的にそれにした」という無意識の採用だったのかは不明である。この点については回答が得られなかったので、想像するしかできない。

前者であれば、我が国の小学生から一般社会人までの英語学習者に対して潜在的に害をなすような選択を意図的にしたと言えるわけであり、高度に公的な存在であるはずの企業としての倫理が問われる。後者であれば、「地球大の発想と行動」(同社の行動基準の2)を標榜する一流企業の商品名決定に関わる担当者の知識のなさが嘆かれる。

また商品名決定時においてプラウンが誤りと認識していたかいなかったかに関わらず、現在、事実として誤読に基づく表品名を流通させてしまっていることについての会社としての見解を公表するのを拒んだのは、残念なことである。上述のベリーベリースープが「当社のブランド名は意味のある言葉ではなく、記号である」と、ある意味で正々堂々と立場を明らかにしたのとは対照的である(その見解が妥当なものであるかどうかにかかわらず、であるが)。

また遺憾の極みは、「以上のやりとりは、お客様個人に対するお返事なので、公表は控えて欲しい」という趣旨の最後の回答である。インターネットやSNSがこれだけ発達し、社会のあらゆる局面で広く利用されている現代、企業の問い合わせ窓口である限り、個人情報や機密に関わる事案などを除き、「世界中の誰に公表されても構わない」という姿勢で責任ある回答するのが、あるべき姿ではないのか。公表できないような回答ならもともとしないほうがよい。

この点についても、やはりベリーベリースープが明快に「ブログのお問合せについても、送らせて頂きました内容を当社の見解として頂いて構いません」と述べ、さらに「それを見た方々のご来店・ご飲食が増える事を願って、心待ちにしております」と、いわば大人の対応で切り替えしてきたのとの違いが際立つ。

良品計画のウェブサイトにある、以下の行動基準の文言が泣いていると感じるのは筆者だけだろうか?

1 カスタマーレスポンスの徹底
2 地球大の発想と行動
3 地球コミュニティーと共に栄える
4 誠実で、しかも正直であれ
5 全てにコミュニケーションを


5 結論

以上のように、今回の問い合わせは後味の悪い結果となった。個人的な話として筆者自身「無印良品」の製品はいくつか所有しており、よい品質に満足していたのだが、今回の一件で「無印良品」というブランドを目にするときの印象が、以前と異なってしまったことは否定できない。

またより本質的な論点として、これは同ブランドを販売している良品計画だけにとどまる問題ではないことを指摘せねばなるまい。「アウォード」であるべき awardが「アワード」として定着してしまっている(=多くの企業がその用語を濫用することで、日本社会にその誤用が定着することに手を貸している)現状からもわかるように、我が国の多くの企業に見られる、端的に言って「自社の商品、広告その他に使われる英語など、英語として正しかろうが誤っていようが、そんなことはどうでもよい。自分たちの顧客は日本語ネイティブなのだから。」といった時代錯誤的な狭量さが本題の本質なのだと思われる。そのマインドセットを本稿では「みんなで渡れば英語間違いなんてどうでもいいや」メンタリティと名付けることとする。

自分たちがすこしでも英語力を伸ばそうとしている学習者たちに、地味ながらもボディーブローのように害をなす行動をして何の罪の意識も持たないようなコーポレートカルチャーにたいして、一英語教師として断固として抗議したい。街中のレストランのメニューのせいもあり、 bakedは「ベイクド」なのだ、と本気で思っている人は多いはずだ。