このたび、VELC研究会教材開発グループ(望月正道先生、熊澤孝昭先生、と靜)として、上記の3冊を完成することができ、数日前にようやく現物を手にしました。
ひとりの著作ではとても無理なくらいの手間暇をかけて作成したものなので、達成感もひとしおです。
題材はテーマを指定してネイティブチームに書き下ろしを発注しましたが、上がってきた英文をそのまま使ったものはむしろ少なく、表現だけでなく、パラグラフの構成から論理の展開まで、我々が納得のゆくまで何度もかなりしつこい(^^)やりとりを経て最終的に完成したものです。語彙面での統制はその分野の第一人者である望月先生が目を光らせました。
扱う題材の広さといいバランスといい、3レベルのグレーディング(英文素材の語彙レベル・コントロールはもちろんのこと、タスクの難易度のグレーディングも)といい、タスクの「地に足のついた多彩さ」(日本人大学生の実情を踏まえた上での多様なタスク設定)といい、かなり高いレベルでバランスがとれたもの仕上がったと思います。
リーディング・リスニング中心にも使えるし、本格的にスピーキングやライティングにも使えますよ。内容ももちろんですが、表紙の装丁もカッコイイでしょ?
是非、ご利用ください。私が中心となった真ん中のレベル(Pre-intermediate)のはしがきを以下に貼り付けておきます。
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はしがき
ベルクテストから見えてきたこと
私たちベルク研究会は、The VELC Test®という日本人大学生の総合的英語熟達度をリスニング面とリーディング面から推定する標準テストを開発し、実施・運営をしているグループです。The VELC Test®は2013年度より全国各地の多くの大学生のみなさんに受験していただいています。
私たちは毎年、大学名や個人名が削除された解答データを分析し、テストの信頼性・妥当性をチェックしつつ、多くの受験者に共通して見られる学力プロファイル(リスニング、リーディングのスキル別の熟達度パターン)を調べています。その中から、日本人大学生にはどのような点で「伸びしろ」があるのか、どのような点を補強すればさらに英語力が伸びるのかについて、次のようなヒントを得ました。
<リスニング>
まず単語レベルですが、自己流の発音ではなく英語母語話者の発音イメージで単語を記憶しておくことの大切さです。そうでない人は、目で見た場合の語彙力と耳で聞いた場合の語彙力がアンバランスなものになります。
つぎに目で見た場合の英文と耳で聞いた場合の英文のイメージのギャップを埋めることです。書いてある英文では、単語の切れ目はスペースによってわかり、すべての単語がはっきりとした黒い文字で印刷してあります。しかしリスニングでは機能語が弱く発音されたり、語と語がつながって発音されたりと、書いてある英文とはかなり異なったイメージになります。そのような現実の音声に慣れておくことが必要なのです。
<リーディング>
単語レベルでは何といっても語彙のサイズを増やすことが大切です。一瞬見ただけで意味が想起できるようになっている単語を増やしておくことがリーディング力の地力となります。
つぎに文構造を見抜く力です。リスニングに比べて一つの文が長くなる傾向にあるリーディングにおいては文法力が重要になります。なんとなく単語の意味をつなげて文の意味をとろうとせず、主語と述語の対応や、修飾語句の範囲などを常にきちんと押さえながら、厳密に意味をとろうとする姿勢が大切です。
また、文レベルの明示的な意味を理解することに加えて、その理解をもとに文と文のつながりをつかみ、テキスト全体の大意を読み取り、さらに暗示的なニュアンスまでも読み取ることが重要です。
<リスニング&リーディング>
最後にどちらにも共通するのは、その時点までに理解した内容から、次の部分を予測しながら進んでゆくという姿勢です。これまでの内容をさらに詳しく説明する内容が来そうか、対立する論点が出されそうか、あるいは話題が転換しそうなのか、などをつねに考えながら聞く、また読む習慣が必要なのです。
このような現状分析を踏まえ、日本人大学生のみなさんが、自分たちの弱点を克服し、総合的な英語力をさらに伸ばしてもらえるレベル別のコースブックを作りたい、という私たちの思いを形にしたのが、このAmbitionsシリーズです。
レベルの設定
このpre-intermediate(準中級) レベルでは、一定レベルの基礎力のある人が、その力をさらに強固なものにすることを目標としています。使用している語彙は、日本人大学生のための標準的な単語リスト『新JACET8000』の1000~4000語レベルで90%以上をカバーしています。
テーマと英文素材
題材のテーマは「異文化理解」「食」「外国語学習」「スポーツ」「ファッション」「生物」「芸術」「グローバル・イッシュー」「日本文化」「人権」「健康・医療」「環境問題」「経済・産業」「法律」「サイエンス・テクノロジー」と多岐にわたっています。現代に生きるみなさんにぜひ知っておいてほしい事実、問題意識を深めてもらいたい事柄を厳選しました。文系のみなさんにも理系のみなさんにも興味をもって取り組んでもらえると思います。
素材はすべてネイティブスピーカーが、みなさんに適したレベルの語彙と表現を用いてあらたに書き下ろしました。対話文,エッセイ,ブログ,新聞記事,インタビュー,スピーチと英文ジャンルも多彩であり、オーセンティックな(世の中にある本物の英文の)香りを楽しみながら、さまざまなタイプのリスニング、リーディングが体験できます。
ユニットの構成
ひとつのUnitはListening PartとReading Partからなっています。さらに詳しくどのような構成になっているかは「使い方のヒント」に述べますが、リスニングに関してもリーディングに関しても単に内容の理解にとどまらず、使われている表現を自分で言ってみる/書いてみる、題材に対する自分の意見を言ってみる/書いてみるという活動ができる構成となっているのが本書の特長です。積極的にスピーキングとライティングにも取り組むことで、4技能を統合的に伸ばすことができるでしょう。
本書を使うことでみなさんが英語運用能力のみならず、情報を収集し、批判的に考え、自分の考えをまとめて発表する力を伸ばしてくださることが私たちの望みです。
著者一同