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12/17/2020

エージーかエージーズか、それが問題だ ...

 大学にはいま「サンポリ」という業界用語がある。これは「3ポリ」のことで、「3つのポリシー」の略なのだ。すなわち、Admission Policy (AP)、Curriculum Policy(CP)、Diploma Policy (DP)だ。

この3ポリは学部学科だけでなく、◯◯センター(キャリアセンター、教職課程センター、国際交流センターなどなど)のような「所属学生」を持たない組織にもあるのだが、厳密に言うと diploma (修了証書)を出す組織ではないので、Diploma Policy はおかしいでしょう、ということになった。

そこで  diploma policy に変わる用語はありませんかねぇ、という相談を受けたので、英語教員としては、Achievement Goals でどうでしょうか、と提案したところ、それが採用になった。

カタカナ表記として一度「アチーブメントゴール」と言われたので、「いや、ゴールじゃなくてゴールズでお願いします。複数形で。」と言ったところ、その後、会議などでは「アチーブメント・ゴールズ」という言い方が用いられるようになった。

いったん、ほかが Policy と単数なのに、なぜ Goalsだけが複数なのか、という質問がでたが、policyは全体でpolicy ですが、 goalは個々の到達目標がたくさんあるので、という説明をしていちおうは納得してもらった。

問題はここからである。Diploma Policy を DPと略したように、Achievement Goalsも略記しなければならない。最近、猫も杓子も口にしているSDGsの例を見るまでもなく、Achievement Goalsは AGs になるのが正しい(は言い過ぎかもしれないが、少なくとも慣行であると思う)。しかし、アチーブメントゴールズのアクロニムとして、AGsを提案することは、私はできなかった。提案して採用されなかったわけではなく、自分の気持としてできなかったのである。

なぜか。

それはあくまでこれは、日本という国の中で日本語を物事を進めている中での、ファッションとしての?英語アクロニム使用の文脈だと考えたからだ。つまり、そのなかで「アチーブメント・ゴールズ(AGs)」とやってしまうと、AGsの「正しい英語らしさ」が目立ちすぎてしまって違和感があるのではないか、と思ってしまったのである。

会議のなかでも "DP"と書いてあるところは、みんな「ディーピー」と読んでいる。APは「エーピー」と読んでいる。でもAGを「エージー」と読んではくれるだろうが、AGsと書いてるのを、「エージーズ」と読んでくれるだろうか?

30 pointsでなく、30 ポイント というのがノームであるお国柄である。「ポイント」というカタカナ語は完全に定着していると思う。また発音的にもポイントとポインツの使い分けくらい、かなりハードルが低いと思うのだが、それでも、メディア等で、カタカナ語として、10点を、「テンポインツ」と言った例を私は聞いたことがない。ポイントでなくポインツというのさえ違和感がある国で、ゴールでなくゴールズというのを受け入れるだろうか?答えはノーではないか、と私は思ってしまった。

そもそも Go To Travel とやって、「わかるんだから、英語として正確かどうかなんて二の次だよね」という状況である。AG か AGs か、なんて二の次どころか三の次ではないだろうか。

だが、今後いろいろな会議で目にする書類で、AGと書いてあって、それを「エージー」「アチーブメントゴールズ」と発音されるたびに、AGs を提案しなかった己の意気地なさに思いをはせることになりそうだ。




12/11/2020

目隠しリピーティング、いい感じです!

 英語の授業で、一応本文の理解が終わった段階で使えるだろう、シンプルでかつちょっとだけチャレンジングな活動を紹介します。名付けて「目隠しリピーティング」。対面授業でもZOOM授業でもできます。中学低学年でも使えるでしょうが、中3〜高校くらいの題材がやりやすいと思います。

やりかたは簡単。前提として生徒全員が手元に文章が見える(教科書として持っている、または投影したスクリーンが見える)とします。適当な1文を選びます。生徒をひとり指名します。指名された生徒は自分で自分の目隠しをします。単に目を閉じてもいいです。

教師がその1文を、なるべく自然な発音で、connected speechや linkingなども駆使しながら音読します。対象としている生徒にとって適切な長さのチャンクで切りながら読んでください。指名された生徒は目隠しをしたまま、教師のチャンクごとの音読をリピートします。

1文の最後までリピートができたら、生徒はその文の意味を日本語で言います。うまくできたら別の生徒を指名して別の文を使って同じことを繰り返します。

想像すればわかるように、指名されてリピーティングする生徒にとっては結構チャレンジングでしょう。一応意味や構造が分かっている文とはいえ、10語を超えるようなチャンクを一気に言うためには、ワーキングメモリに負荷がかかります。つまり、よい練習になるのです。ある題材の復習や仕上げ段階に最適ですね。

周囲の生徒は当該の文を見ながら先生の音読を聞き、目隠しして四苦八苦しながらリピートしている生徒の音声も聞き、「ああ、あそこができてないな」とか「自分だったら言えるかな」などと思いながら見ているわけで、退屈はしにくいのではないでしょうか。周囲の生徒には教師がどの部分を読んでいるかを視覚的に指し示しておくと良いでしょう。

なお、目隠しリピーティングの段階であまりにもヘロヘロなリピートしかできない場合には、すぐに「じゃあ見ながら言ってご覧」と言って、普通のリピーティングに切り替えてあげます。意味を言う段階でヘロヘロな訳しかでてこない場合にも、すぐ「見ながら」モードに切り替えてあげます。

またリピートさせるのは必ずしも1文である必要はなく、適当な長さのチャンクでもよいです。その場合は意味を言わせるのもそのチャンクの意味を言わせることになります。

ひとり(1文)にかける時間を短くして、ランダムに次々に多くの生徒を指名すれば、よい意味での緊張感を作りだせるでしょう。対面の授業であれば、目隠しの代わりに後ろをむいて立たせる、などのバリエーションも楽しいかもしれません。

明日からでもすぐにできる、授業内活動のシンプルなひとつのテクニックとして、いかがでしょうか?

11/13/2020

Intra-word chunk reading(単語内チャンク読み)とか、 Intra-word chunk dictation (単語内チャンクディクテーション)やってみては?

帯広の実習生は予想通りかなり頑張ってくれていた。Englishアイウエオもしっかりパワポにして、その結果 realize などのR/Lの切り替えがある単語なども、少なくとも単語のコーラスの段階ではかなりの生徒がしっかりと言えていたのは流石である。

反面、やはり単語の発音指導に際して、文字と音の結びつきを明示的に教えるという努力が足らないので、とくに下位の生徒には大げさにいうと、「単語はとにかくただひたすら真似して唱えて、ただひたすら英文字の組み合わせを暗記するのだ」という苦行になってしまっている。

その光景を見ながら考えたのだが、「単語内チャンク」というものを決めて、「単語内チャンク読み」や、「単語内チャンク・ディクテーション」をしたらどうだろうか。単語内チャンクとは、文字と音の結びつきを感じやすいようにな区切り、という意味である。音節の区切りとは必ずしも一致しなくてよい。

trans/por/ta/tion

のように黒板やスクリーン上に書いて、/で囲まれたチャンクごとに発音する。そして生徒に単語を「書きましょう」という時にも、/と/で囲まれた文字列の塊は少なくとも一気に短期記憶に入れて覚えて書き写しなさい、と指示するのである。塊の音をブツブツとつぶやきながら書かせるならなおよい。そして、単語内チャンクディクションは、例えば、「じゃあこれを書いてください。 / ʃən/ 」と問題を出して、tionを正解にするのである。こういうクイズを日頃からやっていけば、徐々に文字列と音の対応関係が把握されていくはずだ。


11/08/2020

カナカナふるならもう少し工夫して

以下はある高校検定教科書の新出語欄である。苦手な生徒をターゲットとしているようですべてカタカナで発音を表記している。



 

どうせカタカナ表記するなら、もうすこしなんとかしたほうがよい。所詮カタカナでは正確な音は表せないのは承知の上であるが、tionを「ション」  cal を「カル」 filmを「フィルム」はダメでしょ。(ただし、magicalの  gi を  ジ でなく  ヂ にしているのはよいですね)

location   ロウケイション  →  ロウケイシュン

magical    マァヂカル   →  メァヂコウ

film     フィルム    →  フィオム


を提案します。

もとの表記には、すこしでもこの本を使う生徒たちに、英語らしい英語で読ませてあげたい、という愛情が感じられない。やる気がない、というか。

あとに母音が来ないLを、「ル」だと本気に思い込んでいる学習者は大学生になっても多い。教科書がこういう表記をしているようでは無理もない、ということになってしまう。

11/06/2020

不如帰と夜露死苦の関係 〜中学の先生は単語を読めるようになる指導をしていないのでは?〜

カタカナで単語にフリガナ

 中学で(ときには高校でも?)、特に下位の生徒のために、英文の要所要所に、カタカナで発音のふりがなをつけるという実践をしている場合がある。

発音をカタカナ表記するのは私は全く否定しないし、むしろ積極的使用論者だ。そういえば研究社から出してもらった『カタカナでやさしくできるリスニング』(1997)が私の初めての著書であった。

ただしよく見かける表記よりも、(1)一工夫してより英語音に近く、かつ(2)単独の単語より、複数語がリンキングしたときのイメージなどをカタカナで表すとよい、と思っている。たとえば、not at all (ナタトー もしくは ナラロー)とか、Can you (ケニュー)とか。

しかし今回の本題はカタカナ表記の巧拙ではない。表記の詳細はともかく、カタカナをふる必要を感じるというのは、その生徒たちが、英語表記+英語の音 だけでは、表記と音の結びつきが形成できず、「いつまでたっても英語が読めるようにならない」から、最後の手段としてカタカナをふる、ということなのだと思う。

しかし、「英単語が読めるようにならない」のは、その生徒たちだけの責任なのだろうか、というのが今回のテーマである。


読めるように指導していないのでは?

言うまでもなく英文字は表音文字である。それぞれの子音字とそれぞれの母音字が一定の音を表して、その集合体が単語の発音だ。  d が  ドゥ で、 oが オ で、g が グ だから、d + o + g = ドーグ となるわけである。もちろんこういう単純な音の足し算ができる単語ばかりではないが、こういう、一つ一つの文字、あるいは文字の固まりが、どういう音を表しているか、ということを常に意識しておくこと、生徒に意識させることはとても大切だ。

そういうフォニックス的な感覚をやしなっていかないといつまでたっても「英単語の発音は丸覚えしないといけないのだ」というとんでもない誤りから抜け出せない。100語、500語、1000語、2000語の英単語の読み方を「丸覚え」していける頭のある生徒はいいが、そうではない生徒には地獄が待っていて、落ちこぼれていく。つまり「読めない」。

そういう「読めない」生徒に出会ったときに、けっこう多くの先生がとる方略がなにかというと、「とにかく何度も読ませる」アプローチである。よく見かけるフラッシュカードの読み練習なども、大いにその匂いがする。(今回は、発音がよい、悪いという話は脇においておいても)とにかく何度も何度も、すばやく読ませる。「え?こんな単語まだ読めないの?じゃあ5回よみなさい!まだ覚えないの?じゃああと10回読みなさい!」とばかりに、むやみやたらとテンポよく読ませる、という光景を何度も目撃した。


「不如帰=ホトトギス」式の無駄

しかしそういう反復練習が必要になる、「弱い」生徒たちの頭のなかでは、おそらく英語のひとつひとつの文字と音の結びつきがそもそもないから、彼ら彼女らにとっては、そういう音読練習は、たとえてみれば

「不如帰」「ホトトギス!」「不如帰」「ホトトギス!」「不如帰」「ホトトギス!」「不如帰」「ホトトギス!」「不如帰」「ホトトギス!」「不如帰」「ホトトギス!」「不如帰」「ホトトギス!」「不如帰」「ホトトギス!」「不如帰」「ホトトギス!」

というような、とにかく「不如帰」という形の文字の固まりを見たら条件反射的に「ホトトギス」と読むのだ、という問答無用の丸暗記を強制される、というとっても可愛そうな状況なのだと思う。発展性がない。不如帰をが「ホトトギス」と読めるようになっても、無花果が「イチジク」と読めるようにはならない。


「夜露死苦=夜+露+死+苦」だと教えよう

そうではなくて、夜は「よ」だよ、「露」は「ろ」だよ、死は「し」だよ、苦は「く」だよ、だから、夜露死苦は、「よろしく」なんだよ、ということがわかった上で、

「夜露死苦」「ヨロシク!」「夜露死苦」「ヨロシク!」「夜露死苦」「ヨロシク!」「夜露死苦」「ヨロシク!」「夜露死苦」「ヨロシク!」「夜露死苦」「ヨロシク!」「夜露死苦」「ヨロシク!」「夜露死苦」「ヨロシク!」「夜露死苦」「ヨロシク!」

と連呼するなら多少の意味はある。死が「シ」と読めるようになることは、愛死天流を「アイシテル」と読めるようになることにつながってゆく。


カタカナをふるだけでなく

魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよう、という格言がある。むやみにカタカナを振っている先生は、ただ単に魚を与えているのではないだろうか。もちろんカタカナを振ってやれば、(発音の巧拙はおいておいて)とりあえずその場でその単語を読めるようにはなるだろう。しかし、それは実はその英単語ではなくカタカナを読んでいるに過ぎないのでは?つまり、その単語のカタカナを与えることによって、別の新しい単語に遭遇したときに自力で読めるようになる方向に1ミリでも2ミリでも近づいているか、というとまったくそんなことはない、場合もあるのではないか、ということは考えて見る必要がある。

カタカナを補助として与えるのはいいが、プラスして、一文字、あるいはひとかたまりの文字の連続の読み方、音を教えよう。それが「魚のとり方を教える」ということだ。徐々に魚のとり方がわかれば、人から魚を恵んで貰う必要はなくなるのだから。


ホトトギス先生、猛省せよ

textbookを、tekistubook 的に発音する英語の先生が実際にいる。自身が中学生だったときから英語教員になった今日まで、text = t + e + x + t  という、夜露死苦方式を意識したことがなかったのだろう。  そうではなく、 text =「テキスト」(というカタカナ語)で、ホトトギス方式で生きてきた、そのツケなのだ。英語教師となった今は大いに反省し、ゆめゆめそういう学習者を自分の教室で再生産しないよう、肝に銘じていただきたい。

10/27/2020

コロナ禍のなかでも、きっちり対面グルグルをやってくれました!

今シーズンはじめてとなった教育実習訪問。100キロを少し超えるくらいだが、1時間目が研究授業となるため前泊。下調べが悪く、乗り換えの駅で30分以上も待つことになり、ホテルについたのは9時を回ってしまった。遅い夕食のため唯一の選択肢であったホテル前の居酒屋チェーン店に入ると中は閑古鳥。外食業界の苦境を思う。

翌朝、奇しくも大東外英の卒業生であるという指導教員の先生がわざわざホテルまで迎えに来てくださる。今年還暦の私よりもさらに歳上の方だという情報から勝手に想像していたイメージとは全く異なり、スポーツタイプの車を乗りこなす若々しいバリッとした精悍な風貌にプチびっくり。伺うところによると30代の頃には日本人学校に通算4年ほども勤務されていた国際派であると判明。再任用であるが若い同僚を指導する役割を担っていらっしゃる力のある先生であることが明らかで、うちの実習生にとっての幸運を感謝した。

1時間目にまず授業を見せてもらい、2〜3時間目に講評、それを生かして同じ範囲の授業を別クラスに対して6時間目に再度行うという、1日のなかでビフォア/アフターができる理想的なスケジュールになるように、時間割を調整してくださっていた。この点も感謝である。

■ビフォア授業

そうして肝心の1時間目の授業であるが、期待通り「かなりの」出来であった。おおよその手順は次の通り:

1)パプリカの英語版をさらりと歌う
2)前の授業で提出された生徒の作文をピックアップして紹介&フィードバック
3)単語の導入
4)CDを一度聞かせる(プリント見ながら)
5)チャンク単位で音読練習
6)文単位で音読練習
7)内容理解のQ&A を3つ
8)グルグル

■講評

私がした主なアドバイスは以下の通り(番号は上の手順と対応しない)。

(1)音声CDを一度だけ流しただけで、その後はすべて肉声でやった件:

音声CDと教師の肉声の使い分け・棲み分けを意識すべきである。音声CDはかなり自然で速かったので、それを最終目標として、あれと同じように言えるようになるために、教師が肉声で様々なテクニックによって生徒の音声を鍛え、最終的には音声CDと同じようなリズムとスピードで言えるようになるのを「目指す」のがよい。

(2)音声CDのプロソディの聞き込みが甘い件:

文脈や特定の意味をプロソディに込めているのを聞き取れておらず、したがって生徒にも指導できていなかった。CDでは 'I think .... . → What do 'YOU think? となっているのを、i 'THINK ....., → What do you 'THINK? と指導してしまっていた。聞き込み、読み込みの不足。

(3)カタカナ語になっている単語の日英対比の発音指導が不足している件:

カタカナ語として日本語に入っている語が新出語になっている場合、まさに絶好の発音指導のチャンスなのである。

cup と「カップ」を対比して、cuppuじゃなくて、cup!
pin と 「ピン」を対比して、 piん じゃなくて、ピンヌ みたいに小さなヌを言うといいよ。
yo-yo と「ヨーヨー」を対比して、英語は ヨーじゃなくて「ヨウ」だよ!
adultと 「アダルト」と対比して、tと「ト」に加えて、 lと「ル」の対比にも触れ、「アダウt」みたいだよ!

のような指導が必要だ。

(4)Buzzリーディングに入るのが早すぎる件:

チャンクごとに一斉音読→センテンスごとに一斉音読のあと、Buzzに入ったのだが、一斉音読時の音声面の指導が不足(量的というよりも質的に)していたために、Buzzの質が今ひとつ上がらなかった。より効果的な一斉音読指導が必要。

(5)押さえるべきツボがずれた(あるいは不足だった)件:

典型的なJapanese learners of Englishのツボを押さえた指導が必要だった。キーセンテンスである、I think playing with a kendama is more difficult than playing with a yo-yo.で、thanの THに焦点を当てて発音指導してが、何と言ってもここは日本人にとっての最重要項目でもあり、かつ内容語の playにもある、Lを最重点にすべきであった。thanをzanといってもそういう単語はないが、playには pray, prey というミニマル・ペアがあるのである。

(6)生徒の発音へのフィードバックが、やっぱり足りない点

やろうとはしているがやっぱり足らない。生徒に個人の作文を発表させたときに、「いいね!」と褒めた上で「ワンポイントアドバイスです」といって、RでもTHでも、ひとつだけでもフィードバックして、当該生徒ではなくて全員に一回言わせてみる、といった地道な指導がほしい。生徒だけで一斉に読ませておいて、最初から最後までなにもいわず「結構読めるようになったね!」で終わっては、せっかく読ませてみて絶好の指導の機会を無にしたことになってしまう。やりすぎるとうるさいが、なにか言わせたらかならず1箇所はアドバイスをする、というのを原則にしてみるといいと思う。

(7)内容理解が不十分なまま音読に入った件:

プリントの裏には日本語訳があったが、ほとんど確認せず音読に入ってしまった。またその訳は普通の1文ずつの日本語訳なので、英語と日本語の対応関係が特に下位の生徒には必ずしも明確ではなかったと思われる。日本語訳は、英語の語順に応じたスラッシュ訳がよい。

また、チャンクごとにモデルなしで生徒たちだけで一斉音読させる際、全員のタイミングをあわせるキューとしてカスタネットを使用していたが、その代わりに次の瞬間に言わせたいチャンクの簡潔日本語訳をすばやく言う、のを提案した。つまり、

I think / playing with a kendama / is more difficult / than playing with a yo-yo.

を、

[思うな] I think / [けん玉で遊ぶのは] playing with a kendama / [より難しい] is more difficult / [ヨーヨーより] than playing with a yo-yo.

と言わせてはどうか、と提案したのである。これにより意味を意識させながら音読させることができ、「空読み」を防げるだろう。

(8)教科書の本文をそのまま音読するのみだった件:

実習生なのでしかたないのだが、本文はそのまま、せいぜいチャンクに区切るくらいで、音読させるのみだった。しかし、たとえば、

A kendama, like a yo-yo, is a toy enjoyed by both children and adults.

という文ならば、

A yo-yo is a toy enjoyed by children.
A yo-yo is a toy enjoyed by adults, too.
A yo-yo is a toy enjoyed by children and adults.
A yo-yo is a toy enjoyed by both children and adults.

A kendama is a toy enjoyed by children.
A kendama is a toy enjoyed by adults, too.
A kendama is a toy enjoyed by children and adults.
A kendama is a toy enjoyed by both children and adults.

と言う練習を、適宜日本語で意味をすばやく言いながら言わせ、その総仕上げとしてはじめて

A kendama, like a yo-yo, is a toy enjoyed by both children and adults.

と言わせれば、(1)構文や修飾関係などがよりより理解されやすく、かつ(2)このユニットの文法的なキーである、【名詞+過去分詞での後置修飾】を単純なリピートでなく形を変えながら9回も言わせることに繋がる。

また、

I think playing with a kendama is more difficult than playing with a yo-yo.

ならば、

I think playing with a kendama is difficult.
I think playing with a yo-yo is difficult, too.
But I think playing with a kendama is more difficult than playing with a yo-yo.

というのを、右手にケンダマ、左手にヨーヨーを持ち、右手のケンダマの高さを左手のヨーヨーよりも高く持ち上げて言うことで、 more difficult のイメージを現すことができただろう。

■アフター授業

以上のアドバイスをしたうえで、再チャレンジの6時間目に向けては、(3) 〜(8)についてはなんとか改善することを目指し、(1)と(2)については、いっそのこと音声CDを使用することをやめ、代わりに実習生自身がスクリプトをほぼ覚えて、そのままケンダマとヨーヨーを手に実演することを提案した。つまり、ちょっとしたオーラルイントロダクションからはじめて、教師が教科書本文を act outして、ロールモデルにすることを提案したのである。早すぎる音声CDを1回だけさらりと聞かせるなら、その時間を使って、教師の肉声によるプレゼンをさせるほうがずっとよいだろうと判断したのである。

急遽の変更になったわけなので、空き時間にしていただいた5時間目をつかって十分に練習させ、そして迎えた6時間目... 果たして...?

1時間目が50分授業だったのに対して6時間目は45分だったのだが、1時間目とおなじくなんとかグルグルまでやりきった! 冒頭の実演はまずまず成功である。1時間目と比べて生徒の食いつきが違うし、意味内容についても「うんうん」とうなずいて聞いている生徒が目立った。やっぱり噛み砕いたオーラルイントロダクションや、教師肉声による実演は極めて重要なのだ。(3)〜(8)についても、1点を除いてはすべて十分に改善されていた。

では改善が不十分だった1点とはなにかというと、(6)、つまり生徒へのフィードバックの不足だ。やはりもう一歩踏み込むハードルというのはこちらが考えるよりも高いものなのだろう。指名して作文を発表させた生徒の発音する "read"が思いっきり リーd であっても、そこは「いいね!」でスルーしてしまった。う〜ん。実習生の立場としてはこれが限界か。これ以上の踏み込みは、彼女が来春から実際に教壇にたち、「本物の」自分の生徒を担当するようになってからのお楽しみにとっておこう(か?)。(本音を言えば、あと数日間ある実習中に達成して欲しいけれど(^^)。

いずれにしても、ビフォア授業→講評→アフター授業 という理想的なサンドイッチができるようにご配慮くださった指導教員の先生には感謝してもしきれない。朝早くから放課後まで、本当にいろいろお世話になり、心より御礼申し上げます。あと数日間ですが、引き続きどうぞよろしくご指導のほどお願いいたします!

10/24/2020

4年前のサッカー大好き少年が、いまや子ども大好きパパに

 教育実習生の授業を見に行って95点をつけたのが、2016年6月。あれから4年と4ヶ月。あの時のサッカー大好き少年は、いまや故郷の青森に戻って専任教員をしている。

きょうその彼に、Zoom越しにではあったが再会することができた。大東文化大学の教職課程センター主催「教員養成コロキアム」の卒業生登壇者として迎えたのである。

打ち合わせでは1〜2度話はしていたのだが、いざパブリックな場で彼が話し始めると、声のトーンや態度だけでなく、話の内容があまりにも大人びたものに成長しているのに驚いた。

学生時代のワチャワチャした感じが影を潜め、そこにいるのは自信に満ち、しかし日々試行錯誤しながら子どものために努力する、授業に軸足を据え、自分のアイデンティティ=武器は音声面の指導だと言い切る、愛情に満ちた若きプロ英語教師だった。

オーストラリアでの2年間の「自分探し」の中で様々な経験をし、たとえるならば360度回った末に、やっぱりもともとの出発点であった「子どもたちのスピーキング力をつけたい」という気持ちを実現できる仕事についたのだ、と解釈する。

あれだけさまざまな経験をつんだ教師に教われる生徒は幸せだ。曰く、自分の生徒は自分のこどものように思っています。ごく最近リアルでも父親になったばかりの彼の言葉は説得力がある。

当時のサッカー大好き少年が、サッカー&子どもたち大好き青年教師となったのを確認し、じんわりとした嬉しさをかみしめた秋の一日。

9/03/2020

オンデマンドビデオでのフィードバックは平均36分でした。

 自分でもきちんと把握していませんでしたが、あらためて前期の教科教育法(英語)基礎の授業でのオンデマンドのフィードバックの時間を集計してみました。なんとなく自分で思っていたよりも長く、最短で17分、最長で70分、平均で36分でした。


session 1なし
session 232
session 317
session 416
session 538
session 630
session 722
session 821
session 945
session 1048
session 1155
session 1270
平均35.8

8/29/2020

2020年度前期コロナ禍におけるオンデマンド型主体の英語系オンライン授業

2020年度前期コロナ禍におけるオンデマンド型主体の英語系オンライン授業

Primarily Asynchronous English-Related Classes During the 1st Semester 2020
Under the COVID-19 Pandemic

靜 哲人

Tetsuhito Shizuka

 

Key words: オンライン授業, オンデマンド型動画, 英語, フィードバック

 

要旨:オンデマンド型で行った2020年前期の授業は概して高い満足度を得ることができた。その2大要因は、オンデマンド動画内で説明が詳細でわかりやすかったことと、毎回の提出録音に対して動画で個別フィードバックを行ったことである。しかし、人数は少ないながらもその個別フィードバックの方法について不満を抱いたために満足度が低くなったケースも見られた。後期はこの点を踏まえ、フィードバック方法を微修正しようと考えている。



1. はじめに

 新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、2020年度は我が国の多くの大学が少なくとも前期はキャンパスを封鎖し、完全なオンライン授業を行うという未曾有の状況が出現した。大東文化大学も例外ではない。それまでオンライン授業などとは縁がなかったほとんどの大学教員がオンデマンド(以下OD)動画を作成したりZoomミーティングを行ったりという形によって自宅や研究室から授業を行った。本論文は筆者が行った英語教員養成系の授業と英語スキル養成系の授業すべてをできる限り詳細に振り返ることを目的とする。

 

2. 我が国におけるオンライン授業浸透度

 2003年刊行の『応用言語学事典』には「オンライン授業」「オンライン教育」という用語は現れず、「インターネット教育システム」の項に以下の記述がある。

教育方法は、ウェブページによる静的な情報伝達が基本。電子メールやメーリングリスト、掲示板システム、チャットシステムなどを併用して対話的な情報交換やグループ内の議論を行っているものもある。さらにパーソナルコンピュータのマルチメディア機能の発展を受けて映像や音声を伴う教育も行われている。(p. 683)

 2003年当時にはテキストベースの情報伝達が主で映像や音声を伴う教育は始まったばかりであった。この12年後に船守(2015)は「(アジアや欧州では)気がついてみたらオンライン教育に類する取り組みが、高等教育においても広く浸透していたことに気づかされる」一方で、「日本については(中略)MOOCやオンライン教育にはまだ火がそれほどついていないようだ」が、「それでも何らかの形でオンライン教育、あるいはLMSの利用にはチャレンジしていきたいものである」(p. 47)と記している。すなわち、2015年の時点でも、技術的には可能になっていたオンライン教育が大学教育において極めて広く利用されていた、とは言い難い。

 この意味で2020年の初頭から我が国にも急速に拡大したCOVID-19へ感染は、大学授業に根本的かつ突然の変革を強制的にもたらしたと言える。少なくとも首都圏の大学のほとんどがキャンパスを封鎖し、それまで一部の教員しか実施していなかったオンライン授業をほぼすべての教員が実施せざるを得ない状況がいきなり出現した。

 

3. 2020年度授業の種類

 2020年度前期に筆者が担当した学部授業の名称、対象年次、形態を表1に示す。表中の14が大東文化大学の授業で56は他大学の授業である。「形態」欄のODとは非同期型の授業であり、ZZoomをもちいた同期型の授業である。34のみZoomを併用し、それ以外はすべてOD型で実施したことを示している。

 授業はオンライン型になることが決定したと同時に、筆者は基本的にOD型を基本とすることを決めた。この選択には大東文化大学として学生に対するネットワーク負荷がより低いOD型が推奨されていたことに加え、大きく次の2つの理由があった。

 第1に先行きの見えないオンライン授業における不確定要素をできる限り少なくしたいと考えた。34に関しては学期開始以前からメンバーが確定していてLINEやメールを通じて様々な連絡・調整が可能であり、Zoomの試用なども可能だったが、他の授業はすべて履修者が未知であったため、個々の通信環境に左右される部分の大きいZoomの使用はためらわれた。

 

表1 2020年度前期担当授業および形態

#

授業名称

年次

形態

1

英語教育学入門A

1

OD

2

教科教育法(英語)基礎A

2

OD

3

ゼミナールⅢA/A

3 & 4

OD + Z

4

教職セミナー(専門英語)

3 & 4

OD + Z

5*

英語R(中級)

1

OD

6*

言語・教育演習B

3

OD

*: 他大学授業

 

 第2にOD動画はコスト・パフォーマンスが高いと考えられた。OD動画はいったん作ってしまえば繰り返し使用できる。例えば2は2コマ開講科目であるが同一の動画を使用することができる。(ただし後述するフィードバック動画に関しては2コマ分作る必要がある。)一般論として教育のための労力を惜しむ意図は一切ないが、授業効果が一定であるならば、エフォートを節約できる部分は節約し他に回すほうが合理的である。

 12456は毎年基本的に同一の教材を使用する授業であるため、今年作ったOD動画を来年以降も使用することも可能なはずである。来年度もまたオンライン授業を継続しなくてはならない場合にも対応できるし、対面授業が可能になった場合であっても、授業内容をすべて収録してあるOD動画を授業外で視聴させたうえで対面授業を実施するならば、昨年までの対面授業より内容の充実した反転授業(船守, 2014)も可能となる。

 以上の2つの理由により1256については少なくともまずODでスタートし、軌道にのった頃にはZoomの併用も試みようと当初は考えた。(しかし結果的にはそうはならず、最後まで完全OD型で実施することとなった。OD授業のサイクルが確立し、その中で十分な教育効果を感じていたこと、学期途中で新しい方式を組み入れる余裕がなかったことが理由である。)

 

4. OD動画作成にあたっての基本方針

 全授業の基本となるOD動画の作成にあたっては以下の方針を立てた。

 

4.1 教科書もすべて動画内で提示する

 学期開始当初はキャンパス自体が封鎖されており、指定した教科書が学内書店から学生の手元に渡るのかどうなのかについて確定情報がなかった。そこでその状況が明らかになるのを待たず、最初から学生はひとりも教科書を持っていないという状況を前提として授業を組み立てることとした。すなわち授業に必要な教科書・教材はすべて動画の画面で提示することにより、仮に紙媒体の教科書が手元にない場合でもその動画さえみればすべての学修が可能になることを保証することとしたのである。シラバスで学生に示した文言は「もちろん教科書が手元にあったほうが便利ですが、たとえなくともなんとかなるように動画を構成します。ただし教科書はなるべく早く購入してください。」というものである。

 授業ごとの教科書・教材の一覧を表2に示す。

 

表2 前期担当授業の教材・教科書

#

教材・教科書

1

使用する楽曲の歌詞

YouTubeの公式ミュージックビデオ

2

『英語授業の心・技・体』(靜, 2009

LINKS 1500 大学生のためのトピック別必修英単語』(望月他, 2013)

『日本語ネイティブが苦手な英語の音とリズムの作り方がいちばんよくわかる発音の教科書』(靜, 2019

中学・高校の授業記録動画

3

学生が動画を作成(詳細は後述)

4

教員採用試験の過去問題

5

Ambitions Pre-intermediateVELC研究会教材開発グループ、2018

6

Teaching American English Pronunciation.(Avery & Ehrlich, 1992).(一部)

YouTubeの公式ミュージックビデオ

 

 見て分かるように256の授業では印刷媒体の著作物を含む。この場合、当該著作物のPDF版をもちいて動画を作成した。ただし学生には当該著作物は必ず購入するようにmanaba上で指示した。(なおその後、学期末時点で当該著作物と学生証を並べて写真に撮ったものを提出させることにより、ほぼ全員が購入していたことを確認している。購入していなかった若干名についても後期までには購入することを確約させている。)4についてはもとは自治体が実施した試験の過去問題であり実施後には公表されている印刷物をPDF化して動画撮影した。

 いずれにせよ印刷媒体のPDFを直接学生に配信する方法は取らず、PDFを教員のPC上に表示したものを動画撮影し、それをMP4ファイルとして当該授業の履修者のみが視聴できる形で大学から提供されているGoogle Drive上に置く、という形をとった。動画の中でその授業に必要な箇所だけを提示するという形であれば、PDF自体を配信してしまうのに比べて、意図している以外の学生の手に渡って当該著作権物の将来的な売上に影響するなどの可能性は低くなると判断した。(なお表2の出版社の少なくとも一社は2020年度に限り、学生に購入もさせるという条件で自社の教科書をオンライン授業のために何らかの形で配信することを許諾している。)

 なお、当初は新しく動画をアップロードする毎にURLを取得してそれを配信するつもりだったが、当該授業ごとの動画用フォルダのURLを配信しておき、あとはそのフォルダに動画を累積的にアップロードしてゆくほうが、URLを知らせる手間が一度で済むことに気づきそのような形をとった。

 

4.2 対面授業をほぼそのまま動画にする

 授業動画は、学期を通じて毎週5〜6コマ分を作成する必要がある。よって無理なく続けられるサステイナビリティが大切だと考えた。その意味でもベストなのはOD動画のために特別に新しいことを始めるのではなく、昨年度までの対面授業でやっていた内容を可能な限りそのまま動画内で再現することである。

 筆者はこれまでの対面授業においても常にPC画面にワードファイルや音声ファイルや動画ファイルを投影/再生し、それをもとに説明したりやりとりをしたりする、というスタイルを基本としてきた。よってOD動画においても対面時と同じようにPC画面を投影し、教室にいる学生に向かって語る代わりにPC画面に向かって語りかけ、その映像と音声をそのまま録画するのがもっとも合理的であり、対面授業との乖離が少ない。

 そこで使用することを決めたのが Camtasia 2019(最新版は2020が出ている)というソフトウェアである。Camtasiaの基本的な機能はPCの画面をそのまま録画することである。デスクトップ全体を録画することもできるし、範囲を指定することも可能だ。

 Camtasiaを使い、筆者が操作しているPCの画面の動きと筆者の肉声あるいはファイルから再生されるコンピュータ音声のすべてを同時に記録してOD動画とすることとした。典型的には、教科書であるPDFの1ページを表示しながら教科書付属の音声ファイルを再生し、それについてなにかコメントしながらPDFの該当箇所にハイライトや下線を施したり、強調のためにマルをつけたり、という何らかのマークアップをする、というものである。

 

4.3 動画は基本的に編集しない

 またルーティーンとしての動画作成なので、サステイナビリティのためには過度な作り込みをしないことが重要だと考えた。対面であれば90分間で授業が終わる。それに準じて、対面でも行うであろう授業内容を可能な限りそのままPC上に90分間の「一人芝居」で再現し、それをそのままCamtasiaで録画しておいたものをそのまま完成品とする、ということである。これであれば90分間の独演の録画が終了したと同時に動画も(レンダリングのために必要となる時間を除き)完成する。

 いわゆる「一発撮り」なのでとうぜん、言い間違えや言いよどみが発生することもあるし、場合によっては軽微な操作ミス(たとえば画面のある部分を黄色でハイライトするつもりが誤って緑色でハイライトしてしまう、など)も起こる。それらをあとから編集で削除したりせず、そういうときに思わず出る「おっと間違えましたね」といった筆者のつぶやきなども含めてそのまま動画にした。これは編集の手間を省いてサステイナビリティを確保するという消極的な意味合いだけでなく、それを見る学生にそのほうがODビデオではあっても生放送を見ているような臨場感を少しでも持ってもらえるのではないか、との狙いもあった。対面授業であっても言い間違いや言いよどみは当然存在するのである。

 

4.4 授業内の区切り毎に別動画とする

 第一週目のみは、1コマぶんの動画の最初から最後までを一発撮りで作成した。しかし第2週目からは1コマの最初から最後までを一気に撮るのはやめ、内容的な区切りごとに録画→録画終了→書き出しを行った。

 例えば2の授業は、

(a) 前の週の録音に対するフィードバック

(b)『英語授業の心・技・体』の解説と英文サマリーの音声化練習、

(c) 単語集の単語と例文の音声化練習およびワークブックのリスニング練習、

(d)『発音の教科書』の解説、

の4つの大きなセクションからなっているが、これらの(a)(d)を別々に作成し、動画ファイルも4つ作成した。2の授業の第2週用にアップロードしたファイル名は以下のようになっている。

基礎A session 02-a Fdbk.mp4

基礎A session 02-b 心技体.mp4

基礎A session 02-c LINKS.mp4

基礎A session 02-d 発音.mp4

 

 90分間の動画を最初から最後まで一発撮りで作成するよりも、2040分の動画を別々に作成するほうが、撮影に入るまでの準備も含め、やりやすいためこのような形に落ち着いたのである。

 

4.5 動画内で授業者の顔を見せる

 双方向的やりとりのないOD動画においては一方的に喋っている形になる授業者にたいして親近感を持ってもらうことが教育効果の上でも大切であろう。話している姿を見せたほうが、視聴する上での集中力も高まると期待される。特に筆者の姿をキャンパスで見かけたことすらない1年生対象の動画であればなおさら筆者の顔を提示することは必須だと思われた。

 Camtasiaの録画方法のオプションには、ウェブカメラでPCの操作者(=筆者)の映像を画面の一部に小さくワイプで入れる機能がある。当初はこのオプションを利用して動画を作成しようと考えており、実際に4の授業の動画で3回ほど利用した。しかしその後、このオプションは使うのはやめてしまった。授業の間じゅうずっと自分の顔映像が撮影されていることに心理的抵抗を感じたのと、また背景すなわち撮影場所である自宅の様子が映り込むのも避けたかったからである(Camtasiaにはバーチャル背景機能はない)。

 そこで、自分が話している映像をワイプで入れる代わりに、毎回の動画の最初には自撮りをした静止画を3秒ほど表示し、「みなさん、こんにちは!靜です。今日も授業を始めたいと思います。」と挨拶してから本題に移るという形式とした。

 

4.6 課題に対するフィードバックも動画にする

 完全にOD形式のみで行ったすべての授業において自分の音読を録音して音声ファイルで提出する課題を毎週(126)もしくは隔週(5)に課したが、その提出された音声の質に対するフィードバック(評価および向上のためのアドバイス)も動画にし、次週の授業に合わせて配信することにした。学生の音声ファイルはmanabaに提出されてくるので、フィードバック方法のオプションとしては(1)音声でするのか、テキストでするのか、というモードの選択肢と(2)当該学生だけに見える形でするのか、全員に見える形でするのか、という形式の選択肢がある。モードに関してはキーボードから打ち込むよりも口頭でコメントして録画したほうがたやすい。形式に関しては、個人に対するフィードバックも全員に見える形で行ったほうが授業効果(フィードバックのコストと学生全員が改善する度合いの割合)が高いし、そもそも対面授業であればそのような形で行っている。よって全員の録音ファイルをPC上で再生しそれぞれをその場で評価しアドバイスする様子をCamtasiaで録画することとした。

 なお、対面授業であれば学生同士が顔なじみになり、個人が指名されて例えば音読し、その質について教師が論評するのを全員が聞いて学習するわけである。他の学生の要改善点から学ぶことが大切なのであるが、学生同士が対面したことがないオンライン授業ではお互いの自尊感情に対するある程度の配慮が必要だと考えた。そこで156においては提出ファイル名に個人名を含めず学籍番号のみとした。こうすることでフィードバック動画において個々の学生の音声が再生される際に表示されるファイル名に見えるのが学籍番号のみとなり、要改善点が指摘された個人の自尊感情をある程度守ることができたはずである。ただし2に関しては教員免許取得を目指す2年生以上の学生が履修する教科教育法の授業であり、その配慮は無用だと判断し、ファイル名には氏名を明記させた。

 

5. 各授業の様子

5.1 英語教育学入門

5.1.1 授業の概要

 英語の歌を教材として実際に歌唱しながら英語発音についての知識を深め、実技トレーニングし、 かつ歌詞を利用して語彙の拡充を目指す。実質履修者数は最終的に57名(英語学科1年生)。

5.1.2 OD動画の種類

a. 録音課題に対するフィードバック動画

 毎回の課題である、その日に練習した歌の一部(10秒程度)をアカペラで歌った音声ファイルを筆者のPC上で再生し、それに対して発音の評価および改善のヒントを与えたもの(20分程度)。

b. その日の楽曲の練習動画

 YouTubeの公式ミュージックビデオと歌詞をタイプしたワードファイルを使用し、歌詞の発音上の留意点をハイライトした画面を示しながら、歌詞の音節とメロディの音符の対応関係などを解説したあと、筆者の歌唱と公式ミュージックビデオの当該部分の歌唱を比較対照しながら提示し、適宜ポーズをあけて練習を促したもの(30分程度)。

c. 課題指示動画

 その日に扱った歌詞に使用されている語のなかから5つ、ウェブ上の Longman Advanced Learner's Dictionary (https://www.ldoceonline.com/)を利用した定義を筆者が口頭で提示して、該当する語を探して回答する(ワードサーチ課題)よう指示し、かつその日に歌った一部(4行程度)を録音する(録音課題)指示したもの(5分程度)。

5.1.3 課題とフィードバック

 いずれの課題もmanabaの小テストとして出題した。ワードサーチ課題は自動採点し、締切と同時に正解と成績が表示されるように設定した。録音課題についてはアップロードされたファイルをダウンロードしてからひとつひとつ再生し、フィードバックを与える様子を録画し、次回の授業動画の一部とした。フィードバックは「サドンデス方式」によった。すなわち発音の決定的不備が出現した時点で再生を止め、そのことを指摘し、次の学生に移った。

5.1.4 留意点と考察

 一度もキャンパスに来たことのない1年生であることに配慮し、フィードバックの言葉遣いも特に学期の前半は厳しくなり過ぎないよう留意した。ワードサーチ課題については、英語定義を聞くのが初めての学生も想定し、毎回の成績を確認しながら難易度を微調整した。

 

5.2 教科教育法(英語)基礎A

5.2.1 授業の概要

 英語授業についての考え方を学ぶとともに、将来の教員としての英語技能とくに音声面を鍛える。実質履修者数は最終的に2クラス合わせて51名(英語学科2年生・教育学科2年生・英米文学科4年生)。

5.2.2 OD動画の種類

a. 録音課題に対するフィードバック動画

 前回の授業動画の最後で指定した原則として4つの文の音読を録音してきた全員のファイルを再生し、その場でその質を評価し要改善点を伝える様子を録画したもの。

 履修者全員のファイルを4文すべて再生してそのすべてにフィードバックするのはサステイナブルではないと考え、分割方式もしくは上述した「サドンデス方式」をとった。分割方式とは学生全員をおおよそ4グループに分け、最初のグループは第1文だけを再生してフィードバック、第2のグループは第2文だけを再生してフィードバック、という形で、個別学生に着目するとどれか1文に対してのみフィードバックする形式である。

b.『英語授業の心・技・体』関連動画

 まず自著の『英語授業の心・技・体』のPDFの一部分を画面に表示して、ハイライトやマークアップをしながら講義し、補足説明を加えた。つぎにその内容を80100語程度で筆者がまとめた「心・技・体サマリー英文」をWordファイルで提示して、ハイライトしながら音読し、音声上の注意を与えながらポーズを置いて音読し、学生がリピートする機会を設けた(30分程度)。

c. LINKS関連動画

 教科書指定したLINKS 15001パートに50の語が例文とともに提示されている。画面にPDFでページを提示し、発音上注意すべき箇所(分節音やリンキング、プロソディなど)を指摘しながら、付属のネイティブ録音音声を再生した。録音音声の構成は、(1)2つのターゲット語、(2)1つ目のターゲット語の例文、(3)2つ目のターゲット語の例文、というものだった。そこで、(1a)筆者が2つのターゲット語の音声上の留意点を指摘、(1b)2つのターゲット語の録音音声を再生、(2a)筆者が第1の例文の分節音、リンキング、プロソディの特徴を予想して指摘、(2b)第1例文を再生し、予想との異同を確認、(3a)第2例文の分節音、リンキング、プロソディの特徴を予想して指摘、(3b) 第2例文を再生し、予想との異同を確認、という手順を踏んだ。単に音声を聞かせるだけだと成人学習者である大学生には母語にない音が知覚できない可能性もあるため、英語音声の特徴について明示的に指摘すると同時に聞かせることで知覚の正確度を向上させることを狙ったものである

 この動画の中では、音読を録音して提出すべき3つの文を指定し、かつ50語の中のいずれかの5語についてLongman Advanced Learner's Dictionary の定義を筆者が口頭提示して、その5語をサーチするよう指示した。

 当該単語集のTeacher's Manualには、そのパートのターゲット語を用いた読み物題材、そのネイティブ録音、True False問題、単語空所補充問題が用意されていたため、これを利用して、(1)読み物題材のネイティブ音声のみをリスニング題材として1度だけ再生提示し、(2)True Falseと空所補充問題のPDFを視覚提示しかつ筆者が音読し、回答を促した(40分程度)。

d.『発音の教科書』関連動画

 第3の主教材である『日本語ネイティブが苦手な英語の音とリズムの作り方がいちばんよくわかる発音の教科書』のPDFを提示し、著者である筆者が補足解説をし、かつ録音課題としての1文を指定するもの(10分程度)。

5.2.3 課題とフィードバック

 課題の提出はすべてmanabaの小テスト機能を利用した。

LINKSの例文録音: 音声ファイルをアップロードさせた。このファイルは全員分を再生し口頭でフィードバックを与える様子を撮影し、次回の授業の最初の動画とした。

『心・技・体』要約:その日に解説した『心・技・体』の内容を200字程度でまとめる。閲覧して確認するのみでフィードバックはしない。

『心・技・体』サマリー手書き:その日に扱ったサマリー英文を手書きで暗写・自己採点し、それを写真にとってアップロードさせた。閲覧して確認するのみでフィードバックはしない。

LINKSワードサーチ:動画のなかで指定した5語を探して書かせた。学期の後半には音節のパターン(「ポンポンパターン」)も書かせた。自動採点で成績開示。

LINKSワークブック問題True or Falseと空所補充問題に解答させた。自動採点で成績開示。

『発音の教科書』の例文録音:単語集の録音課題と合わせて同じファイルでアップロードさせた。

不定期の特別課題: 学期の後半からは以上の通常課題に加えて、筆者が過去に中学生・高校生を教えた授業録画(Zero Landmines; My Little Friend Clipper)に関わる特別課題をmanabaのレポート課題として合計10種類課した。内容は、録画を視聴して授業手順を描写する、オーラルイントロダクションを書き取る、その書き取りの誤りリストを作成する、英語による解説を書き取る、その誤りリストを作成する、指定の文を音読する、本文についてのQ&Aを作成する、本文についてのTFおよびキーワードチャートを作成する、などである。これらの特別課題に対するフィードバックは、録音課題を除き、個別ではなく全体の提出物を確認したうえで共通してみられる誤りなどを中心にとりあげたWordファイルを作り、manabaのコースニュースとして全員に配信した。録音課題については動画によってフィードバックした。

5.2.4 留意点と考察

 2年生以上の教職課程の学生ということで、ある程度厳しい姿勢で接することを心がけた。録音ファイル名も氏名を記入させ、個人のパフォーマンスの質を全員の前で明示的に評価するという対面授業に似た状況が動画のなかでも生み出されるよう努めた。

 課題の量という点ではとくに後半の特別課題が加わったころから、おそらく限界に近い量を課しているのであろう、と認識していた。しかしながら例年の対面授業での課題量と大幅に変わってはいないと考えていた。

 テクニカルな面での反省は、音声ファイルのアップロード課題をmanaba小テストの一つとするのは賢明ではなかったということである。当初はすべての課題が一つ小テストに含まれていれば学生も取り組みやすいし、教員も整理がしやすいと考えたのだが、後から音声ファイルだけをひとつのフォルダにまとめてそれを再生する、という方法をとる場合にはそれは得策ではないと判明した。なぜならばアップロードされたファイルを一気にダウンロードする方法が、manabaの小テスト機能の中には実装されていないからである。したがってひとりひとりの解答を開き、手作業で録音ファイルをダウンロードするという神経と時間を使う作業が必要となった。(一度実際にダウンロード漏れがあり、フィードバック動画に含まれなかった学生からの訴えにより気づいた、という事例が1件あった。)すべての課題がひとつの小テスト内に保管できるという利便性を犠牲にしても、録音課題だけは別のレポート課題としたほうがよさそうである。

 

5.3 ゼミナールIIIAIV A

5.3.1 授業の概要

 TED、英文法教科書、歌についてのプレゼンテーションを軸にして英語技能を鍛える授業。実質履修者は最終的に20名(英語学科3年生と4年生)。

5.3.2 授業の形式

 Zoomミーティングで学生がプレゼンテーションをし、それに対してフィードバックし、breakoutルームセッションを行う。プレゼンテーションは、TED、英文法教科書のEnglish Grammar in Use、英語の歌の3種類で、毎回それぞれの担当者が一人ずつ決まっている。プレゼンテーションはライブで行うものではなく、発表学生があらかじめプレゼンテーション動画を準備し、事前に教員に送って修正指示を受け最終的に認められたものを、教員が画面共有機能で再生する、という形をとった。Zoomミーティング当日にライブで行うのではなく、あらかじめ作成した動画によってプレゼンテーションとする、という形式は、正式の授業開始の前にゼミ学生とZoomを用いた実験を行った上で決定したものである。

5.3.3 動画によるプレゼンテーションにした理由

 ライブで行う場合に比べてあらかじめ作成した動画で行うことの利点は以下のようなものがあると考えた。

 第1に、事前に提出させてチェックすることにより質を向上させられる。発表の英語表現や発音などを事前にチェックして複数回提出させて最終的にある程度の質になったものをZoomセッション当時に流すことができる。

 第2に、途中で介入しての音声指導がしやすい。筆者の場合は学生のプレゼンテーションの最中、不十分な発音や文法誤りがあった時には間髪をいれずそのことを指摘するスタイルをとる。Zoomでのライブプレゼンテーションの場合には、音声的なタイムラグがあり、そのような介入がしにくい印象がある。これに対して学生が作成した動画を筆者が操作していれば、自由にポーズを入れてそのような指導を行うことができる。

 第3に音声がすぐに消えない。ライブの場合には学生が不十分な発音をしたとき、その場ですぐに指摘したとしても、指摘した時には当該の音声はすでに消えてしまっている。動画であれば何度でも「巻き戻して」その音声を繰り返し提示することができる。

5.3.4 授業の流れ

<TED>

a. 動画による発表:発表者がパワーポイントでそのTEDトークの概要をまとめ印象に残った3つの文を紹介する。

b. 書き取りテスト:筆者が全体のなかから切り出しておいた3秒ほどの音声ファイルを5つ再生し、学生が書き取る。終了後すぐに答え合わせをし発音練習。

c. 空所補充テスト:筆者が予め作成しておいた全体スクリプトに10の空所を設けたファイルを画面共有し、空所を補充させる。終了後すぐに答え合わせ。

d. ブレイクアウトセッション:4人グループになり本日のTEDトークから感じたことなどを英語で話し合う練習をする。教員は巡回。

English Grammar in Use

a. 動画による発表:EGUのひとつのユニットの解説ページを音読し、練習問題ページの問題と解答をいくつか言う、という内容の発表者の学生が作成した動画を教員が操作して再生する。必要に応じて適宜止め、発音のアドバイスをし、その場で発表者本人に言い直させる。

b. ブレイクアウトセッション: 主に練習問題ページを使ってペアワークを行う。ただし時間の関係で、数回しかやっていない。

<歌>

a. 動画による発表: 発表者の学生がまずYouTubeオフィシャル動画を再生し、次にWordファイルを示しながら歌詞を音読・解説し、最後にアカペラで歌う、という内容の動画を教員が操作して再生する。必要に応じて適宜止め、発音のアドバイスをし、その場で発表者本人に言い直させる。

b. 全員による歌唱:  YouTube動画を筆者が画面共有し、全員で歌う。ただしゼミ生は全員マイクをMuteにしているので実際には声はお互いに聞こえない。

5.3.5 課題とフィードバック

 発表者の3名は動画を作成する過程およびZoomのフィードバックをうける。当日のZoomミーティング内での小テスト結果は各自が記録しておき、授業終了後30分以内にGoogle Formsで作成したゼミの小テストフォームにアップロードする。正解はZoomミーティング中に口頭で確認すると同時に、筆者が授業内で画面提示していたファイルを授業終了と同時にゼミのLINEに配信しておき、確認させる。特に書き取り問題に関しては毎回、書き取れなかった箇所とそれについて思うことを書かせ、それぞれの弱点の意識化を促した。

 

5.4 教職セミナー

5.4.1 授業の概要

 教員採用試験の対策として過去問題の英語長文(英語教育や第二言語習得をテーマにしたもの)を題材にして読解技能およびスピーキング技能を鍛える授業。これは単位になる正規の授業ではなく教職課程センターの兼担教員として担当しているキャリア支援の一貫としてのセッションである。

5.4.2 授業の形式

 OD動画をセッションの1週間前までに作成して配信しておき、それを視聴した前提で、Zoomミーティングではその長文題材を元にした口頭運用訓練を行った。

5.4.3 留意点と考察

 題材の長文はおおよそ第二言語習得分野の専門書の抜粋であり、本学の平均的学生にとって難度は高い。よってOD動画はかなり役にたったようである。構文を確認し意味が理解できた状態でZoomミーティングに臨み、そこではもっぱら当該題材を利用した音読練習、パラフレーズ練習、英語での応答練習を行った。ただし動画配信対象者は20名を超えていたが、コンスタントにZoomミーティングに出席していたのは4名のみであった。アンケートを行ってみるとZoomに不参加なのは時間帯が合わないのが主な理由のようである。

 

5.5  英語(R)中級

5.5.1 授業の概要

 大学の英語授業用のコースブックを教材として、リーディングを中心としたスキル授業である。実質履修者は最終的に22名(英語専攻ではない文系の1年生)。

5.5.2 OD動画の種類

a. 録音課題に対するフィードバック動画

 教科書の1ユニットを前半、後半に分け第1週(Day 1)に前半、第2週(Day 2)に後半、のように2回の授業で1ユニットを扱った。ひとつのユニットの前半はダイアローグがメインだが、その前半を扱うDay 1では毎回(つまり授業全体としては2回に1回)2文程度を指定して音読の音声ファイルを提出させていたので、それに対するフィードバック動画(20分程度)。

b. その日の授業動画

 教科書(Ambitions: Pre-intermediate)を投影しながら、そこに書かれている指示に従って筆者が授業(音読、解説など)をする様子を録画したもの。

 たとえば「音声を聞いて、次の質問に対する答えを選びなさい」という問題であれば、音声ファイルを再生し、正解を確認し、聞き取りの上でのポイントを解説する、などである。

 この他の授業にはなくこの授業の動画だけにある特徴としては「応答想定ポーズ」を設けたことがある。応答想定ポーズとは視聴者すなわち学生が筆者に応答することを想定して動画のなかで設けるポーズのことである。たとえば二人(AB)が話している対話題材であれば、授業者がAになり視聴者がBになって役割練習をするという設定で、授業者がAのパートのみを読み上げ、Bのパートの部分で学生が応答するだけのポーズを設けるものだ。対話を利用した役割練習でなくとも、リーディング教材を利用した、対面授業であれば一斉コーラス音読になるような音読練習でもこの応答想定ポーズを設けていた。つまり文を適当なチャンクに分け、チャンクごとに私が音読(もしくはCD音声を再生)し、ポーズを設けて目の前にはいない学生が繰り返すことを促した。

5.5.3 課題・フィードバック・評価

 Day 1には、ダイアローグの音読課題と、Reading Partのテキストを範囲としたワードサーチ課題を出した。音読課題についてはDay 2用の動画の冒頭でフィードバックした。ワードサーチ課題はmanabaの自動採点で締め切りと同時に正解と採点結果がフィードバックされた。

Day 2にはTeacher's manualの一部として提供されている単語テストをGoogle Form に写真として貼り付けて利用し、やはり自動採点で正解と採点結果をフィードバックした。

 非英語専攻の1年生だということを考慮し、課題の難度や量が無理のないものになるよう留意した。

 

5.6 言語・教育演習B

5.6.1 授業の概要

 音声学の文献を読み解きながら、歌を題材とした発音訓練をすることで、音声学の知識を深め、発音の実技をトレーニングする。実質履修者数は最終的に15名(英語専攻の3年生と4年生)。

5.6.2  OD動画の種類

a. 録音課題に対するフィードバック動画

 毎回、英語の歌の一部を指定して歌唱を録音してファイルで提出させていたので、それに対するフィードバックを動画として作成したもの。

b. 音声学の解説動画

 音声学の文献の一部のPDFを投影しながら、それを解説している様子を動画にしたもの。使用言語は日本語を基本とし、一部英語。

c. その日の楽曲の練習動画

 上述した英語教育学入門で利用したのと同一の動画をこの授業でも利用した。

d. 課題指示動画

 その日に練習した部分のなかで歌唱録音して提出する箇所を指示したもの。

5.6.3 課題とフィードバック

 その日の音声学の内容については、5問のみ、動画bの最後に口頭で出題した。使用言語は英語。True or False形式もしくは1〜3語で回答できる短答式問題を出し、manabaの小テストで自動採点とした。やはりmanabaの小テストの1部とし、その日の課題を歌った録音をアップロードさせ、こちらは一人ずつ再生してコメントした動画を次週の授業用に作成した。

 

6. 前期末の質問紙調査

 以上の6つの授業のなかで、完全OD形式でかつ履修者数が多かった3つ(「英語教育学入門A」、「教科教育法(英語)基礎A」、「英語(R)中級」)について最終授業の課題提出期限前後に、Google Formsを利用した顕名による実態調査を行った。以上の3つの授業をそれぞれ「入門」「基礎」「英R」と略記する。匿名でなく顕名調査としたのは個人の回答内容と学期内の様子を紐付けて理解したいと考えたからである。

 結果をすべて示すことはできないので、3つの授業に共通した質問を中心に回答状況を示す。有効回答数は「入門」が55、「基礎」が41、「英R」が14(英R)であった。英Rのみ実質履修者数に比して有効回答数が少ないのは最終授業終了してから1週間の時点manabaで連絡したため回答依頼が読まれなかったケースが多かったためと考えている。

 

6.1 満足度とその理由

 「全体として、この授業(教員の教え方)にはどの程度満足・納得できましたか」に対する回答を表3に示す。いずれの授業でも満足度は高かったと言えるだろう。

 

3 全体的満足度カテゴリー別パーセンテージ

カテゴリー

入門

基礎

R

非常に満足・納得

43.9

53.7

50.0

おおよそ満足・納得

49.1

39.9

50.0

なんとも言えない

7.0

4.9

0.0

あまり満足・納得できず

0.0

2.4

0.0

まったく満足・納得できず

0.0

0.0

0.0

 

 「そのような回答をした理由をひとつだけ挙げるなら?」というキューに対する自由記述回答を、満足度とクロス集計したのが表4と表5である(英Rは割愛)。

 自由記述に含まれるアイディアユニットを解釈・分類し頻度を数えた。一回答が複数アイディアを含む場合もあり、数値の合計と回答者数は一致しない。表の一番下から3行目と4行目の間の二重線はプラスの評価とマイナスの評価の境目である。当然のことながら満足度が高いほどプラスの評価が多く、低いほどマイナスの評価もある。

 

表4 満足度回答の理由頻度カウント(入門)

理由

説明が詳しく分かりやすかった

9

12

 

21

フィードバックが丁寧だった

10

2

 

12

発音に対する意識が向上した

3

5

 

8

選曲が良い・歌が楽しい

1

3

 

4

発音が上達した

2

1

 

3

授業システムが良かった

1

2

 

3

質問への対応が早かった

1

1

 

2

対面講義であればさらによいはず

 

1

1

2

フィードバック方法に不満あり

 

 

2

2

上達しているかわからない

 

1

1

2

◎:非常に満足/納得  ◯:おおむね満足/納得 

△:なんとも言えない

 

 どちらの授業も共通して「フィードバックが丁寧だった」「説明が詳しくわかりやすかった」のふたつが最も多い。この2つが満足度のための重要な要因だった言える。ただし満足度の低いほうでは、逆に「フィードバック方法に不満あり」に分類した回答に検討すべき点があった。これについては考察で触れる。

 

表5 満足度回答の理由頻度カウント(基礎)

理由

フィードバックが丁寧だった

9

3

 

12

説明が詳しく分かりやすかった

6

2

 

8

教師としての心構えを学んだ

4

3

 

7

担当者の熱意で意欲向上

3

2

 

5

上達/成長を実感した

2

2

 

4

充実していた

1

 

 

1

提出期限に無理なかった

 

1

 

1

授業サイクルが系統的

 

1

 

1

フィードバック方法に不満あり

 

2

1

3

教え方に正解はない

 

 

1

1

オンラインなのにレベル高すぎ

 

 

1

1

◎:非常に満足/納得  ◯:おおむね満足/納得 

△:なんとも言えない or あまり満足できない

 

6.2 動画視聴の実態

 OD動画は視聴されなければ授業が成立しない。「授業動画(フィードバック以外)はどの程度視聴しましたか」に対する回答(表6)を見ると、視聴は十分にされたと考えてよいだろう。

 

表6 授業動画視聴実態カテゴリー別パーセンテージ

カテゴリー

入門

基礎

R

100%見た

59.6

63.4

78.6

90%くらい見た

29.8

31.7

14.3

7080%くらい見た

8.8

4.9

7.1

5060%くらい見た

1.8

0.0

0.0

 

 では視聴の最中、授業者の呼びかけに従って発話・歌唱練習はしたのだろうか。「授業動画を見ながら、指示に従って自分で歌う/発話する練習をしましたか」に対する回答(表7)を見ると、この点も問題なさそうである(「基礎」では視聴者想定ポーズをほとんど設けていない)。

 

表7 視聴者想定ポーズへの取り組みカテゴリー別パーセンテージ

カテゴリー

入門

基礎

R

よく練習した

66.7

-

71.4

だいたい練習した

31.6

-

14.3

時々は練習した

1.8

-

14.3

見るだけだった

0.0

-

0.0

 

 つぎに課題へのフィードバック動画の視聴状況はどうだったろうか。筆者としては他の学生へのフィードバックもすべて見て学んで欲しいが、自分へのフィードバックが最も気になるのは無理もないところではある。「発音のフィードバック動画はどの程度視聴しましたか」にたいする回答(表8)によれば、最も多いのは「かなりの程度見た」グループである。「基礎」を除いては自分のところを中心に見たグループもかなり多い。「基礎」については科目の特性もあり、いちど「フィードバックは必ずすべて見ること」、というメッセージを出したこともあって自分のところを中心に見た割合が少ないのであろう。

 

表8 フィードバック動画視聴の実態

カテゴリー

入門

基礎

R

いつも全員の分を見た

15.8

29.3

28.6

かなりの程度見た

56.1

65.9

42.9

自分のところを中心に見た

22.8

4.9

28.6

自分のところだけを見た

3.5

0.0

0.0

ほとんど見ていない

1.8

0.0

0.0

 

 見ただけでは意味がないが、「発音のフィードバック動画の発音についての指摘は理解できましたか」の回答(表9)を見ると理解度も問題なかったようだ。

 

表9 フィードバックの理解度カテゴリー別パーセンテージ

カテゴリー

入門

基礎

R

よく理解できた

43.9

51.2

71.4

だいたい理解できた

52.6

48.8

28.6

あまり理解できなかった

1.8

0.0

0.0

ほとんど理解できなかった

1.8

0.0

0.0

 

6.3 課題の量

 すべての授業で課題提出は毎週行った。特に「基礎」では週に2回締め切りを設けて通常課題と特別課題の両方を課していた。「課題の量はどう感じましたか」へ回答(表10)を見ると、かろうじて適正な量の範囲だったと言ってよいのではないだろうか。

 

10 課題量の認識カテゴリー別パーセンテージ

カテゴリー

入門

基礎

R

理不尽に多く心が折れそう

-

7.3

0.0

自分の限界に近いほど多い

-

29.3

0.0

多いが計画的にやればこなせる

-

61.0

21.4

余裕を持ってこなせる

-

0.0

71.4

その他

-

2.4

7.1

「英R」についてはもともと課題の量は抑え気味だったので回答は予想通りである。「入門」については、課題量は最低限だったのでこの設問をそもそも設けていない。「その他」は「この科目単体では多くないが他科目に比べると圧倒的に多く辛かった」(基礎)、「全体量は多くはないが録音が大変だった」(英R)という回答だった。

 

6.4 発音上達の感覚

 いずれの授業でも発音についてのフィードバックに力を入れていたが、履修者の上達感覚はどうだったか。「自分の英語発音技能について当てはまるものをすべて選んでください」として全体的および音素別の感覚について尋ねた。紙幅の関係で全体的感覚についてのみ表11に示す。いずれの授業でも以前よりも発音に注意するようになり、技能が向上している感覚も持ったと言える。音素別には「/l/の発音技能が向上した」という回答が3つの授業とも最も多かった(それぞれ64.9%73.2%64.3%)。

 

11 英語発音技能上達の感覚カテゴリー別パーセンテージ

カテゴリー

入門

基礎

英語

発音に注意するようになった

94.7

95.1

92.9

発音の技能が向上した

66.7

80.5

78.6

 

6.5 その他の自由記述への回答

 最後に「上で答えていない感想、後期に向けて私に伝えたいこと、希望、提案などがあれば何でも自由に書いて下さい。」という自由記述設問(回答任意)を設けた。入門で19名、基礎で20名、英R8名からコメントがあった。以下で入門と基礎のコメントを分析する。入門のコメントの中から言及している内容や概念を拾い、その頻度を集計し降順でソートした結果を表12に示す。

 

12 その他の自由記述コメント(入門)

言及している内容・概念

頻度

楽しさ

6

上達、成長、学び、充実感

5

発音の難しさ

4

選曲の良さや今後の選曲希望

4

ワードサーチ課題の難しさ

2

フィードバックの丁寧さへの感謝

2

自分ができないことの辛さ

1

対面形式の希望

1

オンライン形式の継続の希望

1

教員の口が見える映像の希望

1

その他の感謝

1

 

 たとえば一人の回答者が「楽しい」「楽しく」「楽しみ」などの表現をコメントの中で一箇所または複数箇所で使用していた場合に、「楽しみ」の頻度を1とカウントしてある。

 最も上位にきているのが「楽しさ」、そして「上達、成長、学び、充実感」、「発音の難しさ」が後に続いている。この3つをつなぎ合わせると、楽しみながら授業を受け、発音の難しさを感じつつも、上達を実感した、となるが、これは実際に個別のコメントをすべて目視した時の全体的な印象と合致している。

 例えば次のコメントは、「楽しさ」「上達、成長、学び、充実感」「フィードバックの丁寧さへの感謝」に言及していると判定したものである。

前期受けた授業の中で、一番自分の成長が実感できた授業だったと思います。歌で発音を覚えることで、楽しく学ぶことができましたし、最近では、他の授業で英語を使う際や、趣味で洋楽を歌う際に、一つ一つの発音に気を付けるようになりました。また、フィードバックで発音にコメントがいただけることも、授業のやる気に繋がっています。楽しく歌って発音が学べるこの授業が大好きです。(後略)

 次に「基礎」の頻度集計を表13に示す。「発音に対する意識変革と向上」が群を抜いて多く、つぎに「課題の軽減への希望」と「上達、成長、学び、充実感」への言及が同程度に多い。

 

13 その他の自由記述コメント(基礎)

言及している内容・概念

頻度

発音に対する意識変革と向上

8

課題の軽減への希望

5

上達、成長、学び、充実感

5

率直な評価で感じたストレス

3

フィードバックの丁寧さへの感謝

2

オンライン形式の良さ・継続の希望

2

教員の口が見える映像の希望

1

対面形式の希望

1

その他の具体的な希望

1

 

 1年生に楽しく達成感を得てもらうということを最大の目標にした「入門」と異なり、教員免許の取得の意思をある程度固めた2年生が履修する「基礎」では、筆者は楽しさの創出を全く追及していない。履修者がそれまで英語授業一般とくに発音指導に対して抱いてきた既成概念を激しく揺さぶり、実際の発音技能を向上させるため、平均的な履修者の限界に近いと思われる量の課題提出を毎週課し、提出された録音の質に対しては白黒をはっきりさせた表現でフィードバックし、ときに叱咤と激励を繰り返した。この筆者の狙いと態度がそのまま表10に表れていると言えるだろう。

 例えば次のコメントは、「発音に対する意識変革と向上」「率直な評価で感じたストレス」「オンライン形式の良さ・継続の希望」にカウントしてある。

はじめてのオンライン授業で不安な部分も多々ありましたが、前期を終えてホッと安心したのが1番です。授業開始時は教科書も手元に無かったので、映像で見ることができて助かりました。ありがとうございました。前期の講義を受講し、今まで学んできた英語はなんだったんだと絶望し、このような人間が英語教師など今から目指せるものか、一気に将来に不安を感じました。さらにもともとの知識(文法や単語力)にも欠点が多くみられ、発音に重点を置いて学習しなおそうと思いました。講義内での先生のお言葉は厳しめのものが多く、何度も心が折れ、火曜日がくるのが正直しんどいと思ったことが何回もありました。が、その都度manabaに書かれていた「理不尽的な厳しさではないので頑張ってついてきてください」という言葉を見て自分を励まし取り組んできました。対面型の通常授業だと恥ずかしさが勝って控えめになりがちですが、オンラインという環境を逆手にとって家の中でどんどん発音し、自分の「英語」を見直す良い機会だと思って、これからも精進します。(後略)

 

7. 考察およびまとめ

 初めてのオンライン授業であったが、前期を終えてみて、全体としてはOD方式でも十分に効果があると感じることができた。これは学期中の録音課題の質の向上および学期末の質問紙調査を総合しての判断である。表4と表5の結果から、主に(1)動画での説明が詳しかった、(2)提出物に対して毎回丁寧にフィードバックがあった、という認識が肯定的な評価につながったとわかる。

 ただし件数は少ないが、否定的な評価をしたコメントの中に、フィードバックが「サドンデス方式」をとったことに対する不満を表明したものがあった。上でも述べたが履修者が50名を超える「入門」と「基礎」では、時間的な問題を考え、全員の録音を最初から最後まで聞くことはせず、発音の不備があった時点でそのことを指摘した上で再生を打ち切った。これは筆者の対面授業での「グルグル」活動(靜, 2009)にならったものである。

 しかし改めて考察するならば、対面グルグルとOD動画では大きな違いがある。それは対面であれば「グルグル」の名称のとおり、ある瞬間に「サドンデス」になったとしてもその授業時間内に教師が周回してくる回数だけ再度挑戦する機会があるのに対し、OD動画ではその週はそれで機会が絶たれてしまうことである。

 発音項目は有限なので、たとえば /ð/の発音でつまずいた学生は、それを修正しさえすれば自習の課題で挽回することは十分に可能であるし、そのような修正をくりかえせば発音が上達していくはずである。その意味では「サドンデス」方式にも理がないわけではない。

 しかし現実問題として、何度も録音してチェックしたうえで提出してきた数十秒の録音課題が、極端なケースでは、文頭部分の "The . . ."/ð/が不備であったためにその瞬間で再生を打ち切られ、それ以降は一切聞かれない、ことに対して当該学生が「フェアでない」という感情を抱いたとしても無理はないと言えよう。

 今回の自由記述を読んで改めて考察した結果、週に一回のみ提出してくる録音に関しては教育的配慮として全員の分を最初から最後まで聞くべきだった、と考えるに至った。実際、人数的に全員の分を最初から最後まで聞いてフィードバックした「英R」では不満は皆無である。

 しかしだからと言って前期と同じ程度の録音課題を出していては「入門」と「基礎」の授業ではフィードバック動画だけで40分を超える長さとなり、筆者の側も聞く学生の側も負担が大きすぎる。いまのところ解決策としては一度に出題する録音課題の長さをやや短くするしかないと考えている。「基礎」であれば毎回4文の録音を課していたものを、3文ないし2文にする、あるいは短めの文を選ぶ、などである。発音項目は有限なので計画的に文を選んでいけば一度の録音課題が短くなっても、そのなかで必要な発音項目を含むことは十分に可能なはずである。後期はその方向で考えたい。

 自由記述から示唆を得た後期に向けてのもうひとつの可能性は、従来のOD動画配信に加える形で、3週間に1回でもZoomによる同時双方向指導を行うことである。発音指導に関してはやはり指導者の口元が動いているのを見たいという希望が複数あった。現実には指導者の口を正面から見たときに見える調音方法の特徴はごく限られたものであって、Zoomで筆者の顔を見ることによってOD動画では理解できなかった部分が理解できるようになることは、学生が思っているよりも遥かに少ない。しかし口の動きによってというよりも、その場のインタラクティブなやり取りによって理解できるようになる部分はあると思われる。なおZoomミーティングの場合は全員が出席できる保証はないため、希望者だけによるオプショナルなミーティングとすることを考えている。

 また筆者のコントロールを超える根本的な問題として、対面授業再開の時期と是非がある。キャンパスを一度も見たことのない同じ1年生から、「後期に対面で授業をすることはやはり難しいのでしょうか。歌や発音が主な授業のため、やはり直接見てもらいたいです。」(入門)という声と、「新型コロナウイルスが拡大しているので、後期も今の授業形態を継続して欲しい。さすがに対面形式で行うとなると、気が引けて、対面授業には参加できない。」(入門)という声の相反する要望が表明されていた。2020年8月末現在、感染の収束の兆しは見えず、対面授業再開の見込みも立っていない。感染が収束し次のような学生の希望が叶う日が一ヶ月でも早く訪れることを祈るばかりである。

「前期の講義ありがとうございました。これはおそらく叶わない希望ですが、後期は対面授業で普通の大学生になりたいです。よろしくお願いします。」(英R)

 

引用文献

小池生夫他(編)(2003) 『応用言語学事典』(研究社)

靜哲人(2009) 『英語授業の心・技・体』(研究社).

靜哲人(2019)『日本語ネイティブが苦手な英語の音とリズムの作り方がいちばんよくわかる発音の教科書』(テイエス企画)

船守美浦 (2014). 21世紀の新たな教育形態MOOCs(5) 目的に応じて多様に反転授業のデザイン」『大学・短期大学・専修学校のためのリクルートマネジメント』326),40-45.

船守美穂 (2015)21世紀の新たな教育形態MOOCs(6) オンライン教育ふたたび」『大学・短期大学・専修学校のためのリクルートマネジメント』332),42-47.

望月正道他(2013)LINKS 1500 大学生のためのトピック別必修英単語』(金星堂)

VELC研究会教材開発グループ・靜哲人・望月正道・熊澤孝昭(2018). Ambitions: Pre-Intermediate 4技能統合型で学ぶ英語コース:準中級編 (金星堂)

Avery, P. & Ehrlich, S. (1992). Teaching American English Pronunciation. OUP.

 

Camtasia(R) (画面録画編集ソフトウェア)https://www.techsmith.com/video-editor.html