授業に活かす言語学――文法、語彙、発音、作文、テスト作成から家庭学習まで
という特集がなされており、その中で、「生徒が犯しやすい発音上の誤りを見つける」
という記事がある。
大学生が英文を音読した音声ファイルがデータベース化されており、それを調べてみると色々分る、ということで、その例として、/ p / が取り上げられている。
/ p / は日本人には比較的容易だと思われていて、せいぜい帯気音が弱いというか帯気が短いのが問題だ、と思われることが多いが、実際にデータベースにある音声を調べてみると、破裂音でなく両唇摩擦音であることが全体の5分の1を越える。これがわかるとと / p / の指導にあたっての心構えも変わってくるはずだ
といった趣旨である。
なるほど、やっぱりね、p, b, m の両唇音できちんと両唇を閉じていないという現象が数値的に確認されたな、と最初はよろこんだのだが、よく考えると記事の趣旨はおかしいと感じた。
この記事の趣旨は
「こういうデータベースを調べてみると、発音指導の目標(というか発音に関する現状認識)をより適切なものにできる」
というものだ。
しかしこれはおかしい。
なぜなら、自分の担当している目の前の40人なり80人なり120なりの生徒たちの発音をきちんと聞いていれば、p, b, m がダメだということはよくわかるからである。
私など、グルグルをしていて、学生の唇をつまむ(男子の場合)、あるいはつまむ真似をする(女子の場合)ことがない日はない。それくらいよくある現象である。
全体の5分の1だという数値はわからなくても、よくある現象だ、ということはよくわかるのだ。
それを、顔も知らないどこかの学生が録音した音声ファイルを数多く分析しないとわからないほうがおかしいし、わからないと思うのもおかしい。
それは、学生に接していない一般人のはなしである。
教師は教室でいつも学生に接しているのだから、日本人学習者がどういう誤りをするのかは、よくよく身を持って知っているはずである。
もしこの記事の趣旨が、「日頃の発音指導ではわからないことが、音読データベースを分析するとわかることがある」というものであるならば、それはまったく当たっていないと考える。
自分の学生(という小さなサンプル)では出現しない現象が、より一般的には出現しているかもしれない、と言うだろうか?
しかしもしそんなことがあるとしても、自分の学生に出現しない現象ならば、教師としての自分には関係ないこと irrelevant なことである。
教師の仕事は目の前の学生の英語をうまくすることなのだから。