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5/24/2013

パネルディスカッション「いかに大学の英語授業を活性化するか」


学生を(授業に)参加させましょう

靜 哲人

要旨

「いかに活性化するか」というタイトルが設定されること自体が多くの大学の英語授業の現状を暗示している。私個人に限って言えば大学教員として15年間、自分の授業の活性化が必要だと感じたことは一度もない。逆に学生の側からは「先生の授業は独特で『学生参加型』だ」という声が毎年必ずでる。つまり普通の大学の授業は「学生が参加しない」のがnormということなのか、と複雑な気持ちになる。

私の英語授業が大学では珍しいのは私が大学教員になる前は15年間中学高校(含む高専)で13~18歳の生徒を相手にしていたことと無縁ではない。中学高校の教員は、基本的な姿勢として「生徒は放っておけば怠けて(あるいは集中力を切らして)しまうから、あの手この手でこちらを向かせるのが自分の仕事だ」という意識がある。例を挙げると、自分の授業で寝ている生徒がいた時、頭からペットボトルの茶をかけ、「親の金で学校に来させてもらっていてよく寝ていられるな」と凄み、その結果「ありがとうございました」と言わせる、といった実践も現実にある。私自身もペアワークを指示した時、携帯をいじっていた学生の頭をおもわず叩き、その後5秒ほど睨み合ったことがあった。また私の授業をさぼって野球の試合を見に行って、次の授業に何食わぬ顔で出席していた学生の机を蹴り倒したこともある。これらはそういう「暴力」が良いということを言いたいのではなく、13~18歳を相手にする教師は時と場合によってはそういう厳しい対応も辞さないという気合と(下手をすれば問題になってもしかたないという)覚悟をもって教室に臨んでいる、ということが言いたいのである。そしてそういう気合は生徒にももちろん伝わるのだ。

だから大学教員の口から「私語が多かったです」とか「寝ている学生がいました」といった脳天気なコトバが出てきた瞬間に、私の中でのその人に対する教師としての評価はゼロになるのだ。それらのコトバは私の頭の中で自動的に、I wasn’t doing my job. と翻訳されるからだ。英文学、英語学、英語教育学研究者としてどんなに優れていようが、(たかが英語の授業程度の人数の教室で)私語をしている学生、寝ている学生を放置しているようでは人間の教育者としては失格であるし、学生のためにはならない教員である。私語をしていたらやめさせよ。寝ていたら起こせ。そして私語をする隙がない、寝ている隙がない、あるいは私語をする気にならない、寝る気にならないような授業運営を考えよ。

授業を「活性化」しようと思うのなら、まずは自分の責任対象である教室内の学生の全員に「英語の力をつけてやるぞ」という「念」を持つことが第一歩である。「オレはお前たちに英語の力をつけてやるために全力投球するから覚悟しろ」ということである。そうすればおのずと学生に対する目も変わってくるし、学生も「お、この先生はまじめにやらないとまずいな」(I need to take this class seriously.)と感じる。大学生であっても、教員がどういう教員であるかによっていかにやる気と態度が180度変わるか、は本当に驚くほどである。学生が「やる気を見せる価値がある」と思える教師にならねばならない。

その上で、具体的には、「講義」をしようという態度は潔く捨てたほうがよい。英語に関して今更「教える」ことなどは多くはない。知識を伝達するのではなく、いままでに蓄えた知識と材料を使ってみる機会を提供する場が授業だと思ったほうがよい。

講義をする「エライ先生」ではなくて、サマーキャンプで子どもたちに活動を指導する「指導員のお兄さん」のようなつもりになることだ。全員に対して教師が何か働きかけている「一斉授業」の局面と、学生同士が英語を使ってなにかやり取りをしている「ペアワーク」の局面と、教師がひとりひとりの学生をコーチしている「グルグル活動」の局面を、学生が飽きないように使い分け、この3つの局面がおおよそ3分の1ずつになるくらいが望ましい。座学はやめて、学生に立って何かをさせる(英語を言いながらステップを踏ませてみたり、身体を動かさせてみたり)のも大切である。英語の歌を歌わせるのも(私にとっては)必須である。必ず「歌わせる」。私は基礎セミナーで名作購読でも音声学概論でも英語化教育法でも英語2Bでも、必ず毎回、「今月の歌」シリーズで歌を歌わせている。今のお気に入りはOne Directionである。イケメンなので特に女子学生のクイツキは「ハンパナイ」。

英語自体の授業ではないが、昨年度の私の「英語教育学概論」の授業の紹介文としてある学生が、「英語教育学概論はほとんど立ちっぱなしの楽しい授業です」と書いていた。「ほとんど立ちっぱなしだ」と感じるような授業をすればどんな学生でも(VELCスコアが300でも700でも)活き活きと活動する。