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6/21/2012

「Rは放っておいてLをやるべし」考

音声学を専門とする方が学部生にした講義を聴く機会がありました

示唆に富む話はいろいろあったのですが、なかでもおもしろいなと思ったことが、講師の方が

「LとRの区別に関しては、私は日本人のRに関しては無視です。一切直しません。ああいう弾音も世界の言語のなかにはありますし、日本語のら行音のままでもまず誤解はされないからです。ただLだけはだめです。Lは側面音(舌の側面が開放された状態で呼気が通る音)なので、日本語のら行では絶対にLに聞こえませんから。だから私はL! L! とLに集中してやります」

とおっしゃっていたことです。最近私自身も、Lにもかなり力を入れているので、「そうだよね~」という気持ちにもなりかけました。

たしかに一理はあります。

ローマ字表記にも表れているように、典型的な「ら」行音は、大きく分類すればRですから。

で、よく考えてみたのですが。。。むむむ。。一晩考えた結論は、

この「Rは日本語ラ行音で代替するのを認めてL音だけに集中して身につけさせる」アプローチは、少なくともつぎの2つの理由で、現実にはうまくいかない、です。

(1)ラ行音には揺れがある。

日本語のラ行音は、自由変異の異音がけっこうあります。とくに英語が世の中にあふれている現在の状況だと、ほとんど英語の/r/
に近いものから、ほとんど側音であるようなもの、典型的な弾音(一瞬だけ叩く音)、さらにtrill
(数回連続して叩く音)まで、けっこうあり、しかも同一個人でも場合と文脈によって音が違う、ことがめずらしくありません。桑田佳祐さんや矢沢永吉さんの歌などには、側音でラを出しているのがよくあります。

このような状況で、「ラ行音で」といっても、実際にはLも含まれているほどさまざまであるので、それで / r / にするのは無理でしょう。

(2)ラ行音(弾音)と、側音の差は微妙だ。

英語の / r / (近接音。舌先が口内に触れない音)と、弾音の差は、慣れれば比較的誰でもわかるのですが、弾音と / l /
(側面音)の違いは、もっとずっと微妙です。 untrained ear には、違いがわかりません。現実問題として、いまの現職英語教師で、それを聞き分けられる、言い分けられる人は少数派ですし、へたをすると知識としても「違う」ということを知らない場合さえあります。普通の / r / と / l / の区別もできない段階で、弾音と側音の違いは、とても無理ではないかと。

英語の / r / と 英語の / l / なら、トレーニングすれば区別できると思いますが、 日本語の/ r / (つまり弾音)と、英語の
/ l / の区別を習得させるのは、さらに至難の業だと思えます。それができるくらいなら、英語の近接音 / r / を習得させたほうがずっと早いでしょう。

◆ということで、私の現在の結論としては、いまやっているアプローチが、日本人学習者の指導には最適だと考えます。すなわち、

(1)まず近接音の / r / を身につけさせる。とりあえず / l / はうるさくいわず、ラ行音で目をつぶる。両方いっぺんにやるとoverwhelmしてしまうので。

(2)近接音 / r / が気をつければできるようになった学習者には、つぎに / l / を徐々に身につけさせる。つまり弾音ラ行音と側音Lを分離する。

段階(1)がクリアできていない学習者に、ラ行音とLの区別を求めるのは、酷ではないか、と思います。